参考文献
「いまだに、我々は誰一人として山田風太郎の小説を
批評する言葉を持っていない」 ──金井美恵子
とりあえず筆者の目についた、山田風太郎に関する参考文献の一覧です。
なんとなく集めた資料の名前を並べていたのですが、その一方で目にしてはいても参考文献として載せていないものがあることに気がつきました。それは、いわゆる大衆文学専門の同時代評や特集記事です。なぜ載せないのか、理由をあえて言うならば「面白くないから」ということになるでしょうか。その種の評が強固なジャンル意識に支えられているのが気に入らないのかもしれません。
単行本
平岡正明『風太郎はこう読め』図書新聞、1992年。
現在のところ、山田風太郎についての論考で、単行本としてまとめられたものはこれだけです。内容については特にコメントしませんが、山田風太郎作品の殆どすべて(あるいは完全にすべて)を読んだという著者の熱意には頭が下がります。
関川夏央『戦中派天才老人・山田風太郎』マガジンハウス、1995年。
インタビュー・エッセイ等をまとめて構成された「座談的物語」です。この本を読んだ山田風太郎氏は、関川氏に向かって「面白かった。君はパスティーシュがうまいんだね」と言ったとのこと。山田風太郎という作家がどのような人物なのか、手軽に知ることのできる一冊です。
有本倶子『もう一人の山田風太郎』砂子屋書房、2000年
有本氏は作家・歌人とのこと。恥ずかしながら、ページ制作者は未だ本を見たこともありませぬ。砂子屋書房のサイトから様子を窺うことができます。
『「追悼 山田風太郎展」図録』世田谷文学館、2002年
2002年の春に東京・世田谷文学館で開かれた、山田風太郎展の図録。幼児の近影から創作ノート、原稿、墓石などの写真多数。寄稿は文庫解説等でしばしば見ゆる名前が多うございますが、出版芸術社の原田裕氏、旧友の安西功氏など、これまでにない顔ぶれも見え、興味深い一冊に仕上がっております。展示もたいへん良いものでありました。しかし世田谷区は金持ち……というのが文学館自体への感想ではあります(^^;
雑誌特集号
『別冊新評 山田風太郎の世界』1979年7月(新評社)
最近の風太郎ファンには伝説的な(大袈裟かな)書目であります。このページ製作者も未読(T_T) 内容目次は、『密室系』の成田さんの御紹介によるものです(成田さん、ご協力ありがとうございました)。
内容
・グラビア 山田風太郎アルバム
・風太郎との出会い
奈良本辰也「 教師生活十ケ月と山田君」
色川武大「三軒茶屋のころ」
高木彬光「鬼才に望む」
種村季弘「爽快な敗北感」
中島貞夫「異形の人」
・対談 前田愛・上野昴志「山田風太郎と〈明治もの〉の魅力」
・風太論1
松山俊太郎「〈忍耐〉する者としての〈忍者〉」
中島河太郎「山田風太郎の風刺と諦観」
笠原伸夫「夢魔の系譜」
・山田風太郎Q and A 50 今度は明石大佐が主人公ですぞ!
・風太郎論2
保阪正康「「戦中派不戦日記」と痛む心」
松岡正剛「ザ・ピーナッツ主義と生機械学」
橋本治「天の川紅蓮考」
草森紳一「鼻の位置」
平岡正明「風太郎忍法とカラテ」
・山田風太郎ミニ・エッセイ集
「私を語る…」
「私の処女作」
「私のペン・ネーム」
「自分用の年表」
「わが推理小説零年」
「わが家は幻の中」
・風太郎論3
宅和宏「早く来すぎたミステリ作家」
高取英「「甲賀忍法帖」もう一つの系譜」
岸田理生「「妖」と「笑」の手妻師」
早川芳子「忍法帖″愛のテーマ″」
・小辞典
伊藤昭「山田風太郎・忍者人名録(WHO’S WHO)」
伊藤昭「山田風太郎・明治年代記(CHRONICLE)」
・中島河太郎・編 資料室
年譜・作品目録
著者目録
参考文献
『GQ Japan』1995年3月号(中央公論社)
男性ファッション誌中の特集とは思えないほど充実した内容です。特に、山田風太郎自身による自作の評価は、たいへん興味深いものです。バックナンバーは今でも入手できます。
内容
・ロングインタビュー〈人生貼雑話〉「忍びの読書術入門」 聞き手:笠井潔
・山田風太郎年譜
・上野昂志「漱石と風太郎」
・新保博久「乱歩と風太郎」
・日下三蔵「案内・風太郎忍法445」
・「全作品紹介、急ぎ足で」(山田風太郎自身によるA〜Cの3段階評価つき)
・新保博久「「B級作品」の悦楽」
・「風太郎麻雀帖」(雀士・山田風太郎、竹本健治、我孫子武丸、喜国雅彦。喜国雅彦の漫画「忍者麻雀抄」つき)
・「風太郎家 カルトな御馳走帖」蟹の味噌汁、チーズの肉トロ
・橋本治「風太郎先生の御思想」
・奥泉光「いてくださってよかった」
・金井美恵子「宝庫の扉」
・大島渚「『悦楽』を撮ったころ」
・かんべむさし「お許しください」
・瀬戸内寂聴「超俗的な、怪物めいた魅力」
『文学界』1995年9月号(文藝春秋社)
あの『文学界』が山田風太郎特集を組むか、ということでそれなりに人を驚かすものでした。こんな人も山田風太郎のファンだったのか、という発見があります。
内容
・金井美恵子『流刑地の猫』
・谷川恵一「歴史を拒否する物語」
・対談「哄笑とニヒリズム」(木田元・松山巖)
・風太郎・私の偏愛するこの一冊
橋本治『幻燈辻馬車』
上野昂志『八犬伝』
長野まゆみ『婆沙羅』
川村湊『地の果ての獄』
鹿島茂『明治波濤歌』
石堂淑朗『柳生十兵衛死す』
和田忠彦『警視庁草紙』
森まゆみ『魔群の通過』
高梨豊『人間臨終図巻』
浅羽通明『修羅維新牢』
小林信彦「忍法帖シリーズ」他
小田島雄志『くノ一忍法帖』
『東京人』1996年12月号
表紙で煙草をふかしている山田風太郎の写真が良い雰囲気です。本文中にも写真が多く、楽しめる作りになっています。
内容
・インタビュー「ただぼうぼうと「風」の音」 聞き手:森まゆみ
・紅野謙介「戦争という日常」
・川崎賢子「奇想の森の満開の下」
・巽孝之「サイボーグ忍法帖」
・鹿島茂「明治の換骨奪胎術」
・土屋恵一郎「室町にタイムスリップ」
・エッセイ「風太郎讃」
久世光彦「「奇想小説集」焼け跡の匂い」
中野美代子「「妖異金瓶梅」四百年後の新たなる奇書」
四方田犬彦「「くノ一忍法帖」因果なき因果もの」
中島らも「「風来忍法帖」B級、とおっしゃるけれど」
木田元「「警視庁草紙」どこまでが史実?どこからが虚構?」
平岡正明「「地の果ての獄」追跡調査。やればやるほど及びがたい」
・日下三蔵「虚々実々、ニッポン妖人奇人館」
『一冊の本』1997年3月号
「山田風太郎の晩餐」という小特集があります。中山さんのご協力により、手に入れることができました(中山さん、その節はありがとうございました)。「千分の一のお邪魔」に付された、コーチ・はじめ氏による山田家の料理のイラストが最高です。
内容
・野口武彦「エイリアスを作る」
・松山巌「死をも笑い飛ばす人」
・坂崎重盛「千分の一のお邪魔」
『ちくま』1997年5月号
筑摩書房のPR誌です。特集というほどのものではないですが、以下の三篇のエッセイが載っています。
内容
・川村湊「「非国民文学」としての山田風太郎」
・夢枕獏「明治はおもろいで」
・日下三蔵「山田風太郎における明治小説の位置」
『文藝別冊 追悼特集 山田風太郎』河出書房新社、2001年
追悼記念のムック本。「開化の忍者」など文庫未収録作品も収める。執筆者は多彩で、山田風太郎の読み込みの幅を広げる一冊になっています。なお、「戦中派の考える『侵略発言』」はエッセイとなっていますが、事実は語り下ろしを編集者がまとめたものらしうございます(「戦中派天才老人・山田風太郎」にそのように話す下りがあります)。
内容
・アルバム「風太郎風貌暦1922-2001」
・江戸川乱歩「奔放不羈の人」
・阿佐田哲也「山田風太郎さん」
・木田元「映画『地の果ての獄』」
・山田風太郎「開化の忍者」
・同「しゃべる男」
・同「忍法しだれ桜」
・同「一刀斎と歩く」
・同「近衛忍法暦」
・平岡正明「風太郎左派」
・長原豊「列外の系譜学」
・谷口基「滅失の神話」
・細谷正充「風太郎忍法帖」
・小泉義之「風来坊、享楽をとらず」
・野口武彦「文明開化という乱世」
・崎山政毅「山田風太郎と『明治断頭台』、雑感」
・長山靖生「人間玩具説のひと」
・島内景二「婆娑羅たらんとした小説家」
・中島らも・関川夏央「戦中派変奏曲作家」
・山田風太郎「戦中派の考える『侵略発言』」
・山田風太郎・馳星周「忍法帖完結対談」(「IN
POCKET」から再録)
・山田風太郎・島森路子「21世紀への遺言」(「広告批評」から再録)
・笹川吉晴「風太郎作品ジャンル案内」
・日下三蔵・編/編集部・編「山田風太郎作品・著作リスト」
・「山田風太郎略年譜」
『ユリイカ』2001年12月号
青土社が出している「詩と批評」の“老舗”的雑誌。ここでも山田風太郎が!という感慨はございます。全体的に硬めの印象があるかもしれません。
内容
・山田風太郎「伴天連地獄」
・山田風太郎「邪宗門頭巾」
・山田風太郎・中島河太郎「歴史小説と時代小説の間」(「図書新聞」から再録)
・中野美代子「四大奇書をすりぬけて」
・巽孝之「忍者がニンジェットになるとき」
・細川周平「あらかじめ失われた精子たちよ」
・四方田犬彦「死を前にした荒唐無稽の実践」
・山田風太郎スケッチ&エッセイ
・川崎賢子「占領期文学としての山田風太郎」
・末國善己「本格と戦争がリンクするとき」
・北原尚彦「検証『黄色い下宿人』」
・川出正樹「塚もうごけ、わが哭く声は秋の風」
・木田元・中野翠「〈宇宙のからくり〉としての風太郎ワールド」
・細馬宏通「声と合いの手」
・谷岡雅樹「大衆娯楽善導こけし」
・城殿智行「赤ちゃん教育」
・日下三蔵「山田風太郎中毒患者記録」
・日下三蔵・編「山田風太郎執筆年譜」
その他の記事
有栖川有栖『有栖の乱読』(リクルート、1998年)
『妖異金瓶梅』について触れた部分があります。その他の内容も、ミステリファンなら興味深いものなのかもしれません。
上野昂志『肉体の時代 体験的’60年代文化論』(現代書館、1989年)(山本さん、資料の紹介ありがとうございました)
その中の1章の半分ほどで忍法帖について論じています。
金井美恵子『本を書く人読まぬ人 とかくこの世はままならぬ』(日本文芸社、1989年)
エッセイ集『風眼抄』および『人間臨終図巻』の書評を収録。
同『本を書く人読まぬ人 とかくこの世はままならぬPARTU』(日本文芸社、1993年)
『室町お伽草紙』『柳生十兵衛死す』エッセイ集『半身棺桶』の書評を収録。
木田元「風太郎随想」『哲学以外』(みすず書房、1997年)所収
現代の日本を代表する哲学研究者も風太郎ファンだとのこと。様々な読者の読みに堪えるのが風太郎作品なのです。
剣持武彦「ダンテ『神曲』地獄篇と山田風太郎『神曲崩壊』」『幻想文学 伝統と近代』(双文社、1989年)所収
中身はともかくとしても、こんな題で論文を書く人がいるというだけでも私には驚きでありました。しかし『神曲崩壊』が駄作だというのは、作者自ら認めていることですしねえ。
小林信彦「山田風太郎」『東京のロビンソン・クルーソー』(晶文社、1974年)所収
柘植光彦「山田風太郎『戦中派不戦日記』―社会を診断する目」(『国文学』96年2月号)所収
国文学の専門誌に載ったおそらくは唯一の山田風太郎に関する論考です。
筒井康隆『みだれ撃ち涜書ノート』(実際は「涜」は正字で表記)(集英社、1979年)
『幻燈辻馬車』および最後の忍法帖『剣鬼喇嘛仏』についての書評が収録されています。褒め言葉が並んではいるのですが、あまり大したことが書かれていないのも事実。
関連図書
日下翠『金瓶梅』(中公新書、1996年)
中国は明代の奇書『金瓶梅』を紹介する本。『妖異金瓶梅』を読むにあたっての必読書と言っても良いかもしれません。ちなみに『妖異金瓶梅』についてもこの本の中では触れられています。何と書かれているかは自分自身でお確かめ下さい。
『江戸から東京へ 明治の東京』古地図ライブラリー4(人文社、1996年)
古地図を見やすくまとめた便利な地図帳。この巻に収録されているのは明治4年の「東京大繪圖」、明治8年の「東亰大区小区分繪圖」、明治11年の「実測東亰全圖」、明治20年の「東京五千分ノ一」などです。当時の地理を知りたいけれど、古地図に直接当たるのはちょっと……、という方には特にお勧めです。明治ものを読むときに手元にあると楽しめます。値段も1800円とまずまず手ごろ。このシリーズには他に、『江戸切絵図』『幕末人物・事件散歩』『広重の大江戸名所百景散歩』があります(幕末も持っていると便利かもしれません)。
別冊太陽『宮田雅之の切り絵[八犬伝]』(平凡社、1998年)
宮田雅之による、『八犬伝』新聞連載時の挿絵集。大判のカラー印刷にするだけの価値はあるものです。『八犬伝』を読むときに手元にあるとよいでしょう。
他にも山田風太郎について特集している、あるいはいくらかでも触れている文献等をご存知の方は、ぜひこちらまでお知らせください。