happiness



こりこり。
「ひゃ・・・!」
「ミロっ。動かないで・・・」

かきかき。
「わっ。」
「っと・・・・あぶないなぁ・・・」

・・・・?」
「しゃべんないで・・・もうすぐだから・・・」

細長い竹の棒がの手の中で器用に動く。
浅いところを何度かかいて、耳の凹凸に沿わせて優しくとりのぞく。

自分の耳を見つめるの頭が、奥のほうに届く光を求めて
揺れているのが横目でわかった。
狭い空間に皮膚をひっかく音が響く。
それが奥へと近づいてくるのがわかって、俺は反射的に備えるように目を細めた。
「痛くしないってば・・・」
「まだ、おわらないのか?」
「・・・もうすぐ・・・」

意識は完全に俺のミミにいってしまっていて、
ホントに”もうすぐ”おわるのかあやしいところだ。

でもこれもいいものだ。
の膝枕で何も警戒せずに、時間が過ぎるがままにまかせるというのも・・・。


平和な恋人たちのひととき。



時々目を細めながら、そんなフレーズを頭に思い浮かべた。
?」
「なぁに・・・?」

「俺がにしてあげられる事って何かない?」
「何で?」
「幸せだから・・・・」
ぴたりと耳をかく手がとまり、奥で響いていたこそこそという音が消える。
「何よ、急に・・・」
がしてくれる事全部嬉しくて幸せだから、俺も何か出来ないかなって・・・」

聖闘士以外の自分を見つめてくれるの存在
どんな任務の後でも、血で汚れて荒れた心を
落ち着かせてくれて・・・

戦いと、あっけない死・・・
それ以外の世界を見せてくれて
聖闘士を離れた時間を生んでくれた

のいる時のすべてが充実していて
だからこそ俺はに何かしてやってるのかって疑問で・・・



「ミロがいてくれればいいよ。」
「そんだけ?」
「それだけ。」

またこそこそと音がしはじめた。
まだ片耳が残ってる。
静かに目を閉じて、俺はを幸せにする方法についてずっと考え続けた。










その翌日俺は久々の任務の為、黄金聖衣と纏いマントをを整えていた。
姿見の前でマントのひだを調節する。
昨日からの答えを思い出しては考えていたのだったが
鏡の中の自分と目があった瞬間ふと答えが思い浮かんできたのだった。



「あぁ・・・あった。・・・ってかやっぱコレだな。」
頭が仕事モードに切り替わった時に答えを見つけられるとは・・・。
「なにが?」
聖衣のヘッドパーツを用意していたが首をかしげる。
を幸せにするために、あげられるモノ」
「昨日の話?それはミロがいてくれれば・・・」
鏡から振り返ってへと歩き出す。

脚に纏わりつくマントを片腕ではらう。
真白な布がハリのある音をたてて宙に舞った。
に愛を捧げ続ける事だ・・・」
たらりと下がった手をとり、口付ける。

「これは生涯の約束・・・我が女神よ・・・」
驚きと照れが入り混じったの表情を見て、ミロは笑みを漏らした。


昨日が言った言葉
”ミロがいてくれればいいよ”・・・

すべてはそれに集約されている
”そばにいてくれればいい”
言い換えれば、愛し続けるということだ。

俺は俺にしかあげられないものをにあげたいから。
君に1番幸せな表情をさせるもの (ケーキじゃないぞ!)
それを捧げたい。

への想いなら捧げ続けるのなんて苦じゃないから。



(それと黄金聖衣をきて、いつでもカッコイイ俺でいることだな・・・マントさばきも華麗にな・・・)




















ふたりで天蠍宮の廊下を歩き、やがて光が差し込む向こうに教皇宮へと続く長い階段が見えてきた。
出口の柱にもたれかかっていたのはカノン。
「遅い・・・」
が見送りに来たのがわかると、わざと意地悪く待ちくたびれた風を演じてみせた。
「悪いな・・・わずかな期間といえど愛する者とは離れがたいのだ・・・。」
「フン・・・」
カノンがスキを狙っているのは知っている。だから本気でなんて謝らない。

「じゃ、行ってくる。」
「うん・・・気をつけて・・・」
ミロはありがと、と言って上へと続く階段に一歩を踏み出したが、
何か思い出したように振り返った。

「帰りは明後日。」










「天蠍宮で出迎えてくれ。」
そう言ってミロは口元にもってきた右手にキスを落とす。
揺らめきを湛えた瞳をに向けると、指先に落とした熱を風にのせて愛しいものへと送るのだった。


一瞬にして二人だけの世界を築いたミロの頭をカノンがぺしっと叩く。
「いって!!何すんだよっ。」
「うるさい、・・・・いくぞ・・・」
まだ何か言いたげなカノンを見てはくすくすを笑いをもらす。



ふたりの姿が、もう自分を振り返って手を振ることがなくなった頃








目の前に漂うミロの残した透明なはなびらを


そっと掌におさめ



愛しく唇におしあてる。





「いってらっしゃい、ミロ・・・・。」








そう囁きながら・・・。













BACK




























♪おまけ♪


階段をのぼり、振り返っても下にの姿が見えなくなった頃・・・・カノンが足を止めた。
カノン「おい。」

ミロ「何だ?」

カノン「あれは、俺に対するアテツケか?」

ミロ「あれとは何だ?」

カノン「言わせるか・・・に投げつけたモノだ!」

ミロ「恋人同士の挨拶だ。」

カノン「が汚れるではないか!」

ミロ「けっ、けがれるだと・・・・!!」

カノン「直接キスすればよいものを、わざわざあんなふうに・・・との熱々ぶりを見せつけて・・・」

ミロ「んなわけないだろう。」

カノン「いいや!!みせつけたんだろう!!」

ミロ「違うと言ってるだろうが!!」

カノン「いいや、違わん!!お前はそういうヤツだ!!」

ミロ「違うと言ってるだろ!!だいたい恋人同士がいちゃついて何が悪いんだ!!言ってみろよ!!」

カノン「悪いに決まっているだろう!!聖域の黄金聖闘士誰一人として、お前をの男などと認めておらんのだからな!!」

ミロ「ほう・・・狙っていたのは世界征服だけかと思ったら、次はか・・・。どこまでも悪にそまった男だな、カノンよ。
   さっさと諦めないと、今度はこの俺がスニオンの岩牢にぶちこんでやるぞ、を諦める気になるまでな!!!」

カノン「貴様・・・・が悲しむ姿を見たくないから今まで我慢してやったが・・・」

二人の間に火花が散った。
同時に小宇宙を高めはじめる。
カノン「任務は俺ひとりで片付ける・・・お前はあの世にでも行っていろ!!!」






カノン「ギャラクシアン・エクスプロージョン!!!」

ミロ「スカーレット・ニードル!!!」

千日戦争勃発!!!