最近の元気がない。


仕事をしている時も、ふたりでいる今も
彼女の小宇宙が寂しく揺れているのを感じる。

いつも笑顔でいても、ふとした瞬間周りの声が遠のいたように、俺を含めた誰もが見たことのない
表情をする君がいる。


心配になって『どうかしたのか?』と声を掛けた俺に

「何でもないの。でも、・・・心配してくれてありがとう。」

そう言った。

そうは言ったけど、そんな言葉は嘘ってわかってる。
だって君は今にも泣き出しそうな顔をしている。

ほとんど零れかけてる涙を、それでも必死に流すまいと誤魔化そうとして
笑ってみせる。


俺が何かあと一言でも言ったら、その瞳からポロっと涙が零れそうな気がする。
だから『それならいいが・・・。コーヒーでも淹れてくるか』と言って、
さりげなくその場を離れることにした。

君の涙を見ないように。
一生懸命明るくあろう、強くあろうとする君の気持ちを邪魔しないように。




ふたり分のマグカップと菓子を手にソファに戻る。
さっきまでの自分を見せないように、わざと取繕って明るく振舞おうとするその姿が痛々しいが、
俺も何事もなかったようにコーヒーを飲む。






俺たちは恋人同士だから、
こんな時に何を悩んでるのか話してもらえないのは寂しいけれど、
でも、何でも話せるわけじゃないってこともよく知ってる。

話してもらえても、こんな俺だ。
気のきいたアドバイスなんてできやしない。
と何の関係もない人でも言えるような言葉しかでてこないだろう。


そして、きっとこれも誰にでも言える言葉だろうとは思うけど、


『俺はここにいる』。


忘れないでほしい。




そんな事を思いながら、細い肩ををそっと引き寄せた。
触れた所から伝わる温もりにそっと瞳を閉じるに俺もちょっと安心する。


もう一度
『俺はここにいる』
と心の中で囁いた。


ずっと隣にいようと思う。
そして静かに見守っていようと思う。









いつもの君にもどるまで。