の口から食べさせてくれよ」


そう言ったミロの瞳にドキリとした。

ソファでクッションを抱きしめて、カクテルを楽しんでいる私の髪を、彼は優しく梳いた。

こんなお願い、初めは戸惑ったけど今日はバレンタインなのだから。
彼のために用意したチョコを、彼の望みどおりに食べさせてあげることにした。





      + + + melty kiss + + +




赤の包み紙でひとつひとつ包装されてたチョコは、お酒入りの大人の味。
自分では食べるつもりなんてなかったから、口に入れるのはちょっと抵抗がある。
私は、甘いものは甘いものとして食べたい方であって、お酒入りのお菓子というのは実は好きではないのだ。
アルコールに強いわけでもないし。


ねじられた部分を解いて、そっとチョコを取り出して自分の口に含んだ。
ひと粒は思ったより大きめで、口いっぱいに頬張るみたいに、ちょっとくるしかった。
「なんだか・・・・」
「ふんぐ?」
「いや、なんでもない。」

中のお酒が広がらないうちにミロに食べさせようと、体重を移動させる。

「口の中でちゃんととかしてくれ。」
「ぐっ・・・」

要は、ほんとにただ食べさせるだけの色気のない事をするなと言いたいのだろう。
しょうがない、今日はバレンタインだ。

私はチョコを舌で包むようにして熱を与えて表面をとかした。
冷たい液がどこからか染み出して、アルコール独特の香りと味が口内に広がった。

「んっ・・・・・」

その味が苦手な私は、ちょっと顔を歪めてミロの様子をうかがう。

「どうした?」

わかっているクセに、『ん?』って目をして私を柔らかく見つめるミロ。

「食べさせて・・・。」
「ん・・・・」

ソファにもたれるミロにまたがるような体勢をとった。
私の腰をそっと引寄せて、彼はじっと待ってる。

ゆっくり顔を近づけると、ミロは少し目を細めた。

「・・・・んっ・・・・・」








お互い少しずつ唇を開いていって、私の口からミロの口へ
溶けて小さくなったチョコと染み出したお酒が移されていく。

舌で軽く押し出して、
それをミロが受け取り、
少し味わって、
今度はミロの舌が私の口に入ってきて、
ゆっくりと、
口内を探っていった。

チョコの味がなくなるまで。
そしてなくなっても。
最後は濡れた唇が、くちゅりと艶かしい音をたてて離れる。
名残惜しそうに。


「・・・っはぁ・・・・」
「おいしかった。」

「ん・・・・よかっ・・・。」
「もっと食べたい。」

「・・・・食べさせてくれる?」
「ん・・・・。」

の口から漏れる吐息がミロに
愛を交わす前の深い口付けを連想させる。

「はい、どうじょ・・・・」
「ん。」


「・・・・ふっ・・・・」



「んんっ・・・・・。」
「おいしい・・。」



ちゅっ



「おいしいのは、」




「チョコなのか、それとも」



のくちびるなのか・・・・・」






「ぁっ・・・・・っ・・・」


「ほんとに、おいしい・・・・。」
「ミ・・・・ろ・・・・」





「やっ・・・・・っはぁ・・・・」





顔を近づけたまま、小さな声でミロは『もっとほしい』と囁いた。








『もっと欲しい』








短い言葉が、いつも耳元で囁かれる言葉とシンクロしてしまって
自分の中で勝手に何かがたかぶっていく。
そんな気持ちを止めることも、この後に続くかもしれない秘め事を想像するのをやめることも出来なくて
ミロの要求を受け入れるだけの私。

腰を押さえられているから、体をひねって背後のテーブルから箱ごとチョコをとって
ソファに置く。

さっきと同じように、包みを開いて口に含む。
少しとかして、ミロに食べさせてあげる。

時々私の唇から零れたお酒をミロが舌で舐める。
そんなふうに、ミロが満足するまで口移しが続いた。

唇が離れるたび、角度をかえる度、


ちゅっ


くちゅっ




と音が響く。




ミロが楽しんでいるのはチョコよりも、交わされるkissそのもの。
時々髪をすき、頭をおさえ、
体を優しくなで、


ミロの仕草、視線、すべてが・・・・
kissをkissでなくしてしまう。

「・・・・ん・・・・・もう、ダメ・・・・・」


そんな言葉が出てしまった。




自分の中に広がるアルコールに酔ってしまったのか・・・。
こんな雰囲気に酔ってしまったのか・・・。


「じゃ、今度は俺がに食べさせてあげる・・・。」
「・・・・ほんと?」
「あぁ・・・」




ミロは包み紙を片手で器用に開けて粒を取りだして今度は自分の口に含んだ。
口でとかして、割って私の為にお酒は抜いてくれる。

顎に添えた手で私の口を少し開かせた。


「・・・・んっ・・・・」
「・・・・どうだ・・・?」
「・・・あまい、ね・・・・・おいしい・・・。」


「もっと食べるか・・・・?」
「・・・なんか・・・のみたい・・・・。」
「そうか・・・。」

ミロは片手で私を支えたままテーブルにぐっと乗り出して、カクテルを取った。
また自分の口に入れて、


「・・・はぁっ・・・・」
「もっと、飲むか?」
「・・・・のみたい・・・・」





ちょっと特別な日だからと、
いつもより甘くて深い口付けが、どちらからともなく交わされた。










 終