「しっ!」
勢いよく閉められたドアの音に、ミロはアイアコスの顔を見て人差し指を立てる。
状況を確かめればソファにうつ伏せになって寝息をたてているがいた。
シャワーを浴びに数十分前にリビングを出たアイアコス。
が寝てしまったため暇をもてあましたミロはビール片手に車の雑誌をパラパラとめくっていた。
9月とはいえ、まだモワっとする人間界聖域の空気。
すぐにじっとり汗ばみそうな風が、窓の外から流れてくる。
『もう少し汗がひいてから何か羽織ろう』正解だったとアイアコスは思った。
「おい、クーラーくらい買えよ・・・。」
「うるさい。文句あんなら俺の部屋にくるな。」
「仕方ないだろ。冥界にはは来たがらないのだからな・・・。」
「じゃ、黙れ。」
アイアコスは濡れてさらにツヤを増した黒髪を無造作にかきあげ、可愛げのない聖域の友人から目を
逸らした。
2人が仲良くなったのは、数年前。
ハーデスとの聖戦に一応の決着がつき、協定が結ばれ定期的に会議がひらかれるようになった。
会議の休憩時間に何となく会話をするようになり、酒を飲むようになった。
アイアコスが聖域に足を運ぶ事が多い理由が『』だとミロに知られたのは数ヶ月前。
ミロもに好感を持っていたから、3人でよく飲み会をした。
けれど今日の飲み会はいつものとは違う。
2人にはある計画があった。
それはあるようで存在しない垣根を取り払う事。
アイアコスはソファに近づくと、の頬に触れるか触れないかまで手を伸ばした。
「ったく無防備すぎだ・・・」
口調とは裏腹に、微妙に上下する背中や半開きになった口元を見つめる漆黒の瞳は愛しい者を見守る
優しさが滲んでいる。
「そこがたまらない・・・」
「起きるのを待たずにキスしてしまいたいな。」
「それよりも、さっきの薬は本当に効くんだろうな?」
ミロの言葉を受けてアイアコスはテーブルの下に隠しておいた空の瓶を取り出した。
数時間前
『じゃ・・・貰っていくぞミーノス。』
『幸運を祈りますよ。』
細身で容量の少なそうなボトルはいかにも禍々しい感じがした。
その中にはキラキラと輝くピンクの液体が入っていた。
『・・・・本当に効くんだろうな』
『この私が作ったのですから。それに・・・・こんな物がなくてもをおとす自信はある・・・・
確かそうおっしゃったような・・・?』
『ふん・・・・』
アイアコスが貰った物は、ミーノスが彼の必殺技「コズミックマリオネーション」を応用して作った
恋の秘薬であった。男女がこれを飲めばどうなることか・・・精神的にも肉体的にも。
『おい、1つ確認するが意のままになるのは肉体だけとは言わないだろうな?』
『思い通りになるのは、あなたが望む事全て。さんの心もあなたのものですよ。』
この秘薬を懐にしまいアイアコスはの待つ聖域へと出かけていった。
ミロとこの秘薬を共有するのは、気があうからだ。
そして何よりが2人から愛されたいと願い始めている事を知っているから。
お互いにとって他の男など邪魔以外の何ものでもないが、が望んでいるのだ。
声にしなくても、
『ミロとアイアコスの2人から愛されたい』と・・・。
だけどは世間の常識だとか、そんなモノを気にする性格だからこうしてやるのが一番いいんだ。
『秘薬で求めずにはいられなくする』それが2人の結論で・・・。
「ん・・・・」
後ろのソファでの声がすると、来るべき時のためにミロとアイアコスは素早く笑みを交わす。
アイアコスは立ち上がり、ミロは再び雑誌に視線をおとした。
「・・・?」
「・・・ん・・・アイコ・・・?」
「こんなところでは風邪をひくぞ?」
「んー・・・・っ・・・。」
アイアコスが腕に手をかけて状態を起こそうとすると、はそれに反応して声を漏らした。
小さく振り返って再び交わされる視線。
『これは相当な効き目だな・・・・』
「どうした、?」
は濡れた黒髪の隙間から自分を優しく見つめるアイアコスにいつもと違う何かを感じていた。
「何だか・・・っあ・・・。」
触れられた頬から全身に痺れが走る。
その痺れの正体が何かはよく分かっていて、起きたばかりで目の前に好きな人がいるだけで
そんな風に反応してしまう自分はよほど淫らなのかと、
ぼんやりとした思考が肉体的な面にばかり向いてしまう。
『私どうしちゃったのかな・・・?』
それも言葉に出来ず。心は目の前にいるふたりの男だけしか捉えてくれなかった。
数十分の睡眠は秘薬の効果を十分に引き出してくれた。
そして、これから始まる3人の夜。
2人の男に抱かれる準備も整っただろう。
「、まだ寝たりないのか?」
「違うの・・・・でも・・・・」
「でも?」
アイアコスはの隣に座って肩を抱いた。またもその感触に反応する。
はなかなか言おうとしない。ただ潤み始めた瞳でアイアコスを見上げたり
同じようにミロの反応を窺ったり、体に起きている反応を素直に口にはしなかった。
「どこか具合でも悪いのか、?」
「ううん・・・・」
「ベッドを借りて少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「そうだ、。そうしたほうがいい・・・。」
「・・・・そうかな?」
「俺がついていてやる。」
そう言うとアイアコスはを立ち上がらせ寝室に向かって歩き始めた。
「アイアコス、を頼んだぞ。」
「あぁ・・・・」
雑誌に視線を落としたまま、通りすがるアイアコスに声をかけた。
(先にはじめてるぞ・・・・)
(シャワー浴びてくる)
「ミロ?」
「ん?どうした?」
「ミロは?来てくれないの?」
震える声で、来ないのか?ときくを優しく見つめ返した。
「大丈夫、あとで行くから。」
「・・・・絶対来て・・・・ね?」
「ちゃんとアイアコスの言う事をきくんだ、いい?」
「うん。」
寝室のドアが閉まるとミロはCDをセットし、冷蔵庫から新しいビールを取って口をつけた。
「、大丈夫?」
ベッドに横たえられたは高ぶりを必死で隠すのもつらくなっていた。
触って欲しい。
でも、いえない。
こんな恥じらいなど捨て去ってしまいたかった。
「どこか苦しいところは?」
瞳を潤ませ、手足を投げ出すように横たわるは間違いなく秘薬に惑わされている。
「全部よ・・・」
「じゃ・・・俺がみてやる。・・ここは苦しくない?」
「あっ・・・・・」
ビールが3分の2開いた頃、ミロの耳にもようやくの声が届き始めた。
初めはCDに消されていた声も、だんだん大きくなって・・・・。
『ぁ・・・・うっ・・・・』
『・・・ここも、食べていい・・・?』
『はぅっ・・・・アイ・・・アコス・・・』
『もっと、呼んで・・・・?』
普段からは想像できないの声。
でも想像してやまなかった嬌声。
『ぁぁっ・・・・んっ・・・・・』
『・・・?もっとよくしてやる・・・・。』
『ゃっ・・・・んんっ・・・・はぁ・・・・・』
(おい、・・・・早くしないと食い尽くすぞ?)
共犯者とはいえ恋敵を心配するとは、随分余裕なものだ。
「うるさい・・・」
テーブルに缶を置くと、ミロはバスルームに向かいながらシャツを脱ぎすてた。
耳元でベッドの軋む音では待ち望んだもう1人の相手が来たのだと気がついた。
「ミロ・・・・っ・・・・」
与えられる刺激が強すぎたのか、ミロを見上げるの瞳からは涙が流れていた。
「・・・」
「んっ・・・・ミロぉ・・・・」
自分を求める手は指の先まで熱を帯びて。
「、よかったな。」
「またせてゴメンな・・・」
ミロとキスを交わすの耳元にアイアコスが囁いた。
「?・・・・ミロにもっと気持ちよくしてもらったらいいよ・・・。」
一旦離れると、アイアコスはを起こして後ろから抱きしめる体勢をとり
両足を持ち上げて足を大きく開かせた。
「やっ・・・・!」
艶を帯びた所が露になっては顔を背けて恥らった。
ミロは滴り落ちるものを指ですくい、軽くなぞりあげた。
「んんっ・・・・はぁ・・・・・」
「、こんなんじゃ足りないよな?ずっと待ってたのにな・・・・」
「ミロ・・・・?」
「いっぱいしてあげる・・・・」
不意に与えられる刺激に何度も足を閉じそうになるの足をアイアコスが押さえる。
ミロは焦らしながらも、が絶頂をむかえられるように与え続けた。
夜はまだはじまったばかり・・・・
終