××× promise ×××








「シ・・・オンさま・・・・・」
っ!!しっかりしろっ!!」
名を叫ぶ声の激しさとは対照的に、シオンと呼ばれた輝く鎧を纏った長髪の青年は
血まみれの少女の体をそぉっと、抱き起こした。

聖戦の最中、
正義の代償となったのはと呼ばれた少女だけではなかった。
聖域の周辺に広がっていた罪なき女神の民たちの家は、ぶつかり合う聖闘士と冥闘士の火花に
焼かれ、逃げ遅れた者は犠牲となった。
殺された民と闘士の分だけ空は血染めのように紅くなった。

!!っ!!」
自分の名を叫ぶ声に少女は、うっすらと目を開いた。
「シ、オンさま・・・・・?」
「しっかりしろ、今助けてやるぞ・・・・・・!」
そう言って小宇宙を手に集中させはじめたシオンの気配を感じると、少女は鋭い声を出した。
「いけません・・・・!!」
「何がいけないのだ?!」
「こんな私に・・・・・シオン・・?あなたの力を使っては、いけないの・・・・・。」


「わかる・・・でしょ?ね・・・・・?」
「だが、・・・・・!」
「シオン・・・・?」
「わからぬ、」
「わたしは、もう・・・・た・・・すからない・・・から」
「助けてみせる!!」
「・・・・ほんと・・・に?」
涙の滲んだ瞳で少女は清らかに微笑んだ。少女の持ち上げた手は自分の胴を支えている
シオンの腕に触れた。

そう、シオンの震える腕に。
シオンは


『本当に?』


と涙混じりにおかしろうに言ってみせる少女の意味を悟っていた。
もう助からないだろう。
誰の仕業なのか、どうやって繋がっているのか考えたくもない程の穴が少女の腹部に
あいていたのだから。
最強といわれる黄金聖闘士の自分の小宇宙でも




助けられない・・・・。



『ね?』



と瞳で訴え、最後の別れをおしえる恋人の微笑みにシオンの瞳からこらえきれぬ悲しみと怒りが
あふれ出した。
「お前なしで・・・・・どうやって生きろと、闘えというのだ・・・・!!」
「だいじょ・・・・・ぶ。シオンは・・・・もっともつよい・・・・んでしょ?」
少女はシオンを心に刻みつけるように囁いた。
最強の名をほしいままに、頂点の中の頂点に立つシオンと愛を分かち合えた誇りが、弱々しい口調ではあったけれども滲んでいた。
遠くを見はじめた少女をぎゅっと抱きしめるとシオンは首を横に振った。

「だいじょ・・・・ぶ。」
「嫌だ。私は・・・・いやだ・・・・!」
「シオン・・・・?」
・・・?」

「あいしてる・・・・わ。」
?」
「ま・・・・・た・・・・あいた、い・・・・




?」


息を確かめようと体を離すと、自分にもたれていた頭は支えを失ってかくん、と後方に垂れた。
激しい痛みの中で得たシオンという理想的な最期に血の滲む少女の口元は微笑を湛えていた。
・・・・・・





『また、会いたい』







「お前に何もしてやれなかった私を赦せ。」
シオンはマントを外して広げると、少女の亡骸を静かに横たえた。
「だが・・・・だが・・・・。最期に残した望み、このシオン何としても叶えてみせよう・・・。」
シオンはの片手を取ると、自分の人差し指に傷をつけた。

「絶対に戻って来い!!このシオンの元へ!!
今度会うときは、平和な世界で・・・・」

の小さな掌に、自分の血でアリエスの印とシオンの頭文字が描かれた。
「絶対に生まれかわって・・・・・・・このシオンの元に再び・・・・!!」

「どんな姿に生まれてこようと、これを印に・・・・・・私は、、お前を・・・・・・・!!」











お前を探し出す・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!







シオンはの手を包み込むと、血文字が消えないようぎゅっと握らせた。
そしてマントで亡骸を包むと、目に付かない場所へ隠した。






劣勢だった女神の聖闘士たちが、勢いを取り戻したのは大切な恋人の死を見取った
シオンが再び戦場に姿を現した後の事。

その2ヶ月後、聖戦は終わりを告げる。
聖域は黄金聖闘士2人だけが生き残り、他階級聖闘士、雑兵のすべてを失うという多大な犠牲を払った。
敵味方なく折り重なる無残な死体の山を、友に支えられながら女神の待つ聖域へと向うシオンの姿があった。
背後に夕日を振り返った時、彼の胸に去来したのは聖闘士として地上を守った誇りだっただろうか?
それとも



かけがえのない恋人を失ったかなしみだっただろうか?