ベッドの中で布団にくるまって眠りにつくまでのひととき。
夫婦のコミュニケーションしませんか?




++++++白くまのふく++++++



電気を消して『おやすみ』を交わしてベッドにもぐりこんだ。
遮光カーテンは外の月明りをすっかり締め出していたから、暗闇に目が慣れるまで時間がかかる。
まぁ、寝るだけだから慣れるのを待つ必要もないのだが。
仰向けの体勢でぼぉっと天井を見ていると、左脇からガサゴソと足で毛布を蹴る音がしてきた。
それが思ってるより長く続いたので、『うるさい』と嫌味を言おうと口をひらく。
2人しかいないのだから遠慮する必要もないのに何故か小声で。

「さっきからうるさいよ、もう・・・・。」
「すまない・・・・」
「そんなに布団ひっぱらないで、寒いじゃない。」
がひっぱるからだぞ・・・」
「カミュは寒さに強いんだから毛布なんていらないでしょう?」
「強くなどない。」
「うそつき」
「私だって、寒いものは寒い。」

半ば開き直ったように言うカミュ。

「寒い人は布団を剥ぎません。」
「はぐのではなく、が私の分をとっているのだ。」
「へりくつ。」
「夜中布団がないせいで、ぷるぷる震えている私がかわいそうだと思わないのか?」

カミュは一旦ベッドに入ってしまうと、眠気が強くなるまでは本を読んでいる。
その習慣をとても大事にしているようなので、なるべく邪魔はしないようにも同じように本を読んだりした。
そんな感じだから寝る前と電気を消してからの時間帯は、会話らしい会話というものがないのだ。
けれど、今日はおしゃべりに付き合ってくれる気分のようだ。

はまだまだ話をしたいというように、つづける。


「そんなに寒いなら、パジャマ着て寝ればいいのに。」
「あれば着る。」
「あるでしょ。」
「ない」
「ウソ。」
「本当にない。白くまの服も気入っていたのに・・・。なくなってしまった。」

----うっ・・・・パジャマの話はするんじゃなかった。

時すでに遅し。


白くまの服とは、彼が愛用していた冬物のパジャマ(ジャージ)のことだ。
白い布地がフリース素材よりも、もう少しフカフカしていて、それを着た姿がクマさんぽくって
可愛かったのでが『白くまの服』と名づけたのだ。そしてカミュもいつの間にかその服をそう
呼ぶようになっていた。
のだが、

結婚して自分の荷物を運び込み、何回か洋服の整理をしている
『古くなったし新しいのを買ってあげればいいだろう』と許可もとらずに捨ててしまったのだった。
捨ててからだいぶたつし、今更そんな話題をもちだされるとは、冷や汗ものだ。

「何でなくなったのかは想像がつくがな・・・。」
「・・・・・。」
「捨てたんだろう?」
「・・・・誰が?」
が。」
「まさかぁ・・・!」
「とぼけなくてもいい、わかっている。」

「あれさえあれば、寒さに震える心配もないのだがな。」
「何言ってんのよ、カミュってばユ○クロに行く度にジャージ買ってるじゃない!」
「買ってない!」
「買ってるよ!」
の極端な言い方に『何を言いだす!』と反発するカミュ。
今にも噴出しそうな笑いを堪えて、しょうもないやりとりが暗闇に響く。


「でもそれ以外にもあるでしょうが、1枚くらい。」

なければ他の服を着ろと言う提案で、白くまへの執着を忘れさせようとする
このセリフは、裏目に出た。

「・・・・ねずみ色のがあったか。」
「ぷっ、ねずみ色って・・・・、普通灰色とかグレーとか言うでしょ。」

「あれはどこにしまったのだろうな、。」
「・・・・。」

----ねずみ色のジャージって何っ!!

記憶の欠片もないような服の行方を懸命になって思い出そうとする
はたして自分が葬ったのか、それともクローゼットに埋もれているだけなのか?

「どうした?」
「それってどんなんだった?」
「サイドに緑のラインのはいったものだ。」
「えぇ?そんなのあったっけか・・・」
「あった。」
必死になって思い出そうとしてるところで、もう負けである。

「ねずみ色のジャージ・・・・ねずみ色のジャージ・・・・ねぇ・・・」


「さぁ、どうした?」
「って言われてもなぁ・・・・知らないもん。」
「そうか?」
「いい加減白状したらどうだ?」
「ほんっとに知らない。」

そしてはついに墓穴を掘ってしまった。

「ほんっとに!知らない。それは捨ててないよ。」
カミュは片眉をピクリとさせた。

「ほぉ、それ『は』捨ててないのか。それ『は』・・・。」
『絶対白状するもんか』とふんばったのに、あっさりボロを出すとは。
お互い隣で肩を震わせているのがわかった。

「『それ』が何をさしているのも明白だな?」
「・・・っ・・・っ・・・・くくっ・・・・」

『それが何をさしているのか、文章中の言葉を使って6文字で答えなさい。』
カミュは国語の問題が出来たぞ、などと言いながらをさらに追い詰めた。

「答えは勿論、『白・く・ま・の・ふ・く』だ。」

「ここまであっさり誘導尋問にひっかるとは・・・。期待を裏切らないやつとは、のような
者を言うのだろうな・・・。」

----あぁ、私は誘導されていたわけね・・・。

そんな事にも気づかず、必死になってジャージの行方を辿った自分は・・・と笑えてくる。


ひとしきり笑った後、『さぁ、もう寝るぞ・・・』とカミュはゆっくりと瞼を閉じる。
『ねぇカミュ?』
『カミュさ〜ん?』
『お〜い?』
軽く脇腹をつついたりしたけれど、『寝なさい』と頭を軽くポンポンとされたので
再び会話に付き合わせる事をあきらめた。





------今度街に行ったら、暖かいパジャマを買ってこようか。
     私が捨ててしまった白くまのふくと同じようなものがあるといいな。



またひとつ楽しみができたと想像しながらカミュの肩に頭を寄せると、
彼もまた私の髪にそっと頭を寄せた。

やがてスースーと聞こえていた寝息に耳を傾けながら、私も知らないうちに
瞳を閉じていた。








  終