Unshuffled/アンシャフルド
書籍『Steel & Silver』収録(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1994
Paul Gertner/ポール・ガートナー

演者はデックを取り出し「印のついたカードでマジックを見せる」と告げます。「Marked Deck」と書かれたカードケースから演者が取り出したデックの側面には、ごちゃごちゃした黒い点や線が描かれています。デックを表向きにし、両手の間で広げてカードがよく混ざっていることを示します。

裏向きに揃えたデックをドリブルし、客にストップをかけてもらいます。客の指示で落とすのを止め、左手パケットのトップカードを客に示し覚えてもらいます(仮にハートの8だったとします)。客のカードを左手パケットの上に戻し、残りのパケットを重ねて完全に揃えてしまいます。

客に「今からデックを"Un"shuffleする」と告げ、デックを二分してFaro shuffleを行います。デックをきちんと揃えると、先ほど黒い点や線があったデックの側面に「UNSHUFFLED」という文字がタテに4つ重なって書かれているのがわかります。2度目のFaro shuffleで文字はタテに2つ重なりになり、3度目のFaro shuffleで、デック側面いっぱいに「UNSHUFFLED」と書かれた状態になります。デックを表向きにし両手の間で広げ、カードが完全な順番に(購入したときの状態で)並んでいることを示します。

カードを裏向きのファンにして、客に先ほど覚えたカードを尋ねます。客は「ハートの8(Eight of Hearts)」と答えますが、演者は聞き違えたふりをして、デックのトップカード「ハートのエース(Ace of Hearts)」を取り出して示します。客から誤りを指摘されたらそのカードをトップに戻し、デック全体をゆっくりと揃えます。すると先ほど「UNSHUFFLED」と書かれていたはずのデック側面に「EIGHT OF HEARTS」の文字が現れます。

Unshuffledは「シャフルされていない=順が揃っている」という意味。Take one card trickの体裁を一応取ってはいますが、この手順の最たる魅力は「混ぜるほどにデックが揃っていく」という奇妙な不条理性にあるのではないでしょうか。

この作品はいくつかの原理・現象の組み合わせによって成り立っています。すなわち「1、複数回のFaro shuffleによってカードの順が規則的に入れ替わり、ついには最初の並びに戻るという原理」、「2、デックの側面に描かれた文字や記号を、カードの順をいったんバラバラにして判別できないようにした後に再び組み直してみせるアイデア」、さらに「3、客の選んだカードがデック側面の文字によって示される現象」です。それぞれの要素について解説を加えます。
 1は、52枚のデックで8回のPerfect faro shuffleを行うとデックの順が初期状態に戻るという古典的な数理で、マジックやパズルの世界ではよく知られたシステムです。
 2の基本原理も、実はPaul Gertnerの創案によるものではありません。Theodore Annemannは『The Jinx』第19巻(1936)の中で「デック側面に文字を書き、カードの順を変えることによってそれを暗号化する原理は、第一次世界大戦中に考案された」と述べています。その後このアイデアに複数のマジシャンによって実際的な改良が加えられ、それらの集成が「Unshuffled」の基礎になっています。
 3はこの手順のクライマックスであり、紛れもなくPaul Gertnerのオリジナルです。客の選んだカードが当たることももちろん不思議なのですが、それ以上に、直前まで示されていたデック側面の文字の変化こそが重要であり、この手順をそれまでの一連の作品群から抜きん出た存在に位置づけている要因であると考えます。

このように既存の原理や考え方を組み合わせ、そこに客のカードを当てる現象を付加して「Unshuffled」というキーワードのもとに全体を統合したことが、Paul Gertnerの功績だと言えるのではないでしょうか。解説文冒頭の「この作品は、ポールの過去15年間の作品中で要となるものの1つである(One of the mainstays of Paul's work over the past fifteen years is this routine, 〜)」という一節は、けっして過分な評価ではないでしょう。


(参考)