The Visitor/ヴィジター
書籍『The Classic Magic of Larry Jennings』収録(Mike Maxwell/L&L Publishing)1986
書籍『カードマジック入門事典』収録(高木重朗ほか編/東京堂出版)1987
Larry Jennings/ラリー・ジェニングス

演者はデックから4枚のクイーンを抜き出し、表向きでテーブルに置いておきます。残りのデックを裏向きでテーブルにドリブルし、客にストップをかけてもらってドリブルを止め、そのときテーブル上にあるパケットのトップカードを客の選んだカードとします。そのカードを客に取ってもらいます。演者は手に残ったパケット(便宜上Aパケットと呼びます)を脇に置き、テーブル上のカードを揃えて(便宜上Bパケットと呼びます)手に持ちます。

客に、選んだカード(仮にスペードのエースだったとします)の表側にサインをしてくれるように頼み、その間、演者は後ろを向いて選ばれたカードを見ないようにします。サインが終わったら振り返り、客に選んだカードのスートの色だけを尋ねます(この場合はスペードなので黒)。客のカードが黒なので2枚の表向きの黒のクイーンを取り上げ、簡単にあらためてから客のカードをそこに裏向きにはさみます。

黒クイーン(表)・客のカード(裏)・黒クイーン(表)という3枚のセットを今から“Aパケット”に混ぜます。3枚以外のBパケットをいったん脇に置き、代わりにAパケットを取り上げ、3枚をAパケットのトップに乗せてカットします。

ここで再びAパケットをテーブルに置き、あらためてBパケットを取り上げます。加えてテーブル上の2枚の赤のクイーンを取り上げ、簡単にあらためてからBパケットの上に裏返すと、2枚の間に客の選んだスペードのエースが表向きで現れます。3枚をスプレッドして赤クイーン・客のカード・赤クイーンという状態の両面を示します。もちろんサインがあることも客によく確認してもらってから再び3枚をひっくり返すと、赤のクイーンの間にあった客のカードが消えています。

テーブル上のAパケットをスプレッドすると、中ほどに2枚の黒いクイーンが表向きで入っており、1枚のカードをはさんでいることが示されます。はさまれているのはサインのある客のカード(スペードのエース)です。

Sandwich Effect、すなわち客の選んだカードが特定の2枚のカードの間に出現するというプロットは、そのパズル性とも相まってさまざまな作品に取り入れられてきました。初期には「Trapped(Edward Marlo)」「Tilt Sandwich(Edward Marlo)」といった作品が見られます。またその逆に、2枚の間にはさんだカードが消失するという現象も「Point of Departure(Alex Elmsley)」などにまず見られ、「Smag Departure(Edward Marlo)」「Departure from a Point(Larry Jennings)」「The '66 Vanish(Bruce Cervon)」など、多くの手順が発表されています。

「The Visitor」のプロブレムの解決にあたって、Duplicate CardやFake Cardの使用は当初から忌避されたと思われます。それはオリジナルの手順においてすでに、カードにサインをさせることで客の安易な予想を否定していることからも想像できます。かと言って、Side StealやPalmingといった技法を用いたアプローチは、それがダイレクトなMethodであるだけに、作品の完成度を結果的に低めることにならないとも限りません。
 この行き詰まりを打破するにあたって、Roy Waltonの創案による悪魔的なサトルティ「Walton Display」を用いたことが、Larry Jenningsの天才たる所以です。これによって「The Visitor」は、単に既存の2つのプロットを融合させたというだけにとどまらず、Sandwich Effectのジャンルに不動の地位を築いたと言えるでしょう。

かように魅力的な作品である「The Visitor」ですが、この手順は「現象が起こるまでに、合理性を欠くパケットの持ち替えが多い」ことが否めないのも事実です。Larry Jenningsのオリジナルが発表されて以来、このプロットにインスパイアされ、多くのマジシャンがそれぞれの改案を発表していますが、その代表的なものの1つである「Isolated Visitor(Derek Dingle)」もやはり、2つのパケットが近づいた印象を極力減らすことに注力したハンドリングとなっています。

また、Larry Jennings本人も後に2つのバリエーションを発表しています。「Last Minute Visitor」「The Visiting Expert」は、いずれも前述したハンドリングの煩雑さを払拭し現象をクリアにしようと狙ったぶん、用いる技法がかなり高度なものとなっており、「The Visiting Expert」の解説の文末には「この手順は技法をこなすのが好きな人向けのものです(This routine is for those of you who enjoy doing the real work.)」とあります。


(参考)

◆ Book
・Edward Marlo「Trapped」「Tilt Sandwich」『Flashpoints』(Jon Racherbaumer/L&L Publishing)1992
・Edward Marlo「Smag Departure」『カードマジック入門事典』(高木重朗ほか編/東京堂出版)1987
・Larry Jennings「Departure from a Point」「Last Minute Visitor」「The Visiting Expert」『The Classic Magic of Larry Jennings』(Mike Maxwell/L&L Publishing)1986

◆ Booklet
・Bruce Cervon「The '66 Vanish」『Richard's Almanac日本語版 Vol.3 No.25』(安崎浩一訳/マジックランド)1993
・Derek Dingle「Isolated Visitor」『Richard's Almanac日本語版 Vol.1 No.11』(安崎浩一訳/マジックランド)1991