Hanging Coins Plus/ハンギング・コイン・プラス
書籍『Coin Magic』収録(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1981
David Roth/デビッド・ロス

4枚の銀貨を少しずつずらして重ねた状態で、左手の親指と人差し指で保持します。演者はそこから右手で1枚の銀貨を取り、左手の中指・薬指・小指で握り込みます。残った3枚の銀貨を右手の指先に移して左手を完全に握り、マジカルジェスチャーをかけて左手を開くと、握った銀貨が消えて(透明になって)います。演者は見えない銀貨を空中にぶら下げる動作をしてみせます。

残っている3枚を再び左手の指先に移し替え、同様のことを行います。すなわち1枚を右手で取り去って左手の三指で握り、残りの2枚を右手指先に移し替えます。左手を開くと銀貨が透明になっているので、それを空中にぶら下げます。続いて3枚目の銀貨も透明になります。

最後に残った1枚の銀貨を右手指先に保持します。「空中に3枚の透明な銀貨がぶら下がっている」ことを客に告げ、右手で指先の1枚ごと宙を掴む動作をすると、音を立てて右手から4枚の銀貨が現れます。

「Hanging Coins」は、John Ramsayの創案した「見えないコインを空中にぶら下げる」というプロットを、David Rothが独自に再構築した作品です。やや大げさに断定してしまえば、この手順はEdge Gripのために組まれたものと言っても過言ではありません。技法と現象が強力に結びついた「Hanging Coins」は、シンプルな美しさを備えた古典の風格を漂わせています。

客に手の平を向け、両手をクリアに示しながら1枚ずつ硬貨が消失していく様は、Edge Gripを知らない人には魔法のように映ることでしょう。さらに「〜Plus」と題されたこのバリエーションにおいては、ハンドリングにいっそう巧妙で繊細な調整が加えられており、これが手順の1つの完成形だと考えてよいように思います。

左手の硬貨を右手で取り再び左手に握り込むといった、少々煩雑な硬貨の持ち替えを多く含むのは「Hanging Coins」の宿命的な弱点であると考えます。すべての動作を適切なリズムで行い、持ち替えの不自然さを緩和する気配りが、演技する際には必要となるでしょう。
 しかし、そういった難点にもかかわらず「Hanging Coins」のユニークな特徴は、演じる側にとって魅力的です。両の手の平を大きく開いて見せながらの硬貨消失。Lappingを使用せず、したがって立った状態で演技ができる点。左右からの角度に対する強さなど、これらすべてがEdge Gripの特性に依っていることは言うまでもありません。

David Rothは「Hanging Coin」のクライマックスとして、上記のように同時に4枚を現すほか、硬貨が指先に1枚ずつ再出現し4枚に戻る「Flash Production」という別法も発表しており、これも同じ『Coin Magic』に収録されています。


(参考)

◆ Book
・David Roth「Edge Grip Technique」「Flash Production」『Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1981
・David Roth「Flash Production with Four Coins」「Flash Production with Five Coins」「The Original Hanging Coins」『Expert Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1985

◆ Video
・David Roth「Hanging Coins」『David Roth's Expert Coin Magic... Made Easy ! Volume2』(A-1 Multimedia)1995