Magnetic Coins/マグネティック・コインズ
レクチャーノート『マイケル・ルービンシュタインのクリエイティブ・コイン・マジック(日本語版)』収録(二川滋夫・高木重朗訳/マジックハウス)1988
Michael Rubinstein/マイケル・ルービンシュタイン

2枚の銀貨を取り出して客にあらためさせながら「銀貨を衣服などで擦ると静電気が起こって、磁力を帯びる」と説明し、実際に袖などで擦ります。銀貨を1枚ずつ両手の指先に持ち手を近づけると、ある程度接近したところでパチンと2枚の銀貨がくっつきます。2枚の銀貨を引き離すにはまた少し力が必要です。この“くっついて引き離す”動作を何度か繰り返します。

銀貨を両手に1枚ずつ握ります。「握った両手を近づけると銀貨が引き合う」と説明し手を近づけると、ある位置で、手の中から銀貨がくっつくパチンという音がします。右手を開くと2枚の銀貨が現れます。

銀貨2枚がしっかりとくっついていることを示します。力を入れると重なったまま微妙に動きますが、磁力が働いているため離れません。ここで演者は「銀貨を引き離すために、磁力を消滅させる」と話します。

2枚を左手に渡し、右手でポケットから小さな馬蹄型の磁石を取り出します。磁石を2枚の銀貨に近づけるとこれまで銀貨をくっつけていた磁力が消滅し、それぞれが自由に動くようになります。

「Magnetic Coins」と言っても、Gimmicked Coinの名称ではありません。タイトルは「静電気によってコインが磁力を帯びる」というプロットに由来します。まともに考えればこの設定が冗談であることはすぐにわかりますが、手順の序盤に登場する魅力的な「磁力を表現するMove」によって、客はちょっと目を疑うような錯覚を味わうことになります。

実はこの手順の原案として、第2段のCoins Acrossの部分がまず存在し、それを見たDavid Rothによって「2枚のコインがくっつく」現象が提案されたそうです。結果的にMichael Rubinsteinは「完全なLinking」という形ではその案を採用せずに、独自に後半部分を付加して手順を完成させ、David Rothは別個に「The Linking Coins」を発表することになるわけですが、両者が重きを置いたポイントの違いをここから興味深く読み取ることができます。

David Rothはコインが連結した状態での手渡しを実現するため、使用するGimmickを完全に接着しました。2枚・3枚とコインがくっつくたびに客にあらためさせられる点が手順の特徴であり、また彼のもっとも強調したかった部分だったと言えるでしょう。
 対して、Michael RubinsteinのGimmickは、連結状態で客に渡すことを放棄した代わりに「引き離そうとすると抵抗を示しながら少し動く」という、きわめて説得力の高い磁力の表現を可能としました。このGimmickが前述した「磁力を表現するMove」と組み合わせることで、「Magnetic Coins」は非常にユニークかつリアルな手順として完成されています。


(参考)

◆ Book
・David Roth「The Linking Coins」「Linking Coins 2」『Expert Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1985