Triple E.G. Spell/トリプル・イージー・スペル
ブックレット『Richard's Almanac日本語版 Vol.1 No.3』収録(安崎浩一訳/マジックランド)1991
Michael Rubinstein/マイケル・ルービンシュタイン

演者は右手の指先に1枚の銀貨(ハーフダラー)を持ってその両面を示し、それを左手のSpellbound Positionに持ち替えます。右手でマジカルジェスチャーをかけると、銀貨はほんの一瞬、銅貨(イングリッシュ・ペニー)に変化して見え、次の瞬間、チャイニーズコイン(イミテーションの中国の貨幣)に変わってしまいます。チャイニーズコインの両面を示し、演技を終えます。

星の数ほど存在するであろうSpellboundのバリエーションにおいても、非常にマニアックなもののひとつです。演技の開始時と終了時にはきわめて特殊な状態でコインをホールドすることになりますが、その前後のハンドリングが一切説明されていないところを見ても、マジックの手順というよりは瞬間芸/One Second Actと呼ぶべきかもしれません。演技前後のコインのあらためを含めても、手順のすべては10秒ほどで終了します。

Dai Vernonが考案したSpellboundからは、多くのマジシャンの手になる、数え切れないバリエーションが派生しました。その1つに、銀貨→銅貨→銀貨→銅貨…といった2種類のコインによる交互の変化現象ではなく、この作品のように、3枚以上のコインに変化するという類型があります。
 いささか技巧主義的な色が見える「Triple E.G. Spell」に対して、「Triple Spellbound(Earl Nelson)」のように、Double Faced Coin1枚とレギュラーのコイン1枚を用いて、3種の変化を実現する作品もあります。実際に扱うコインは2枚ですから、ハンドリングがさほど煩雑にならず、スマートな手順構成を実現しています。この考え方の延長線上に、さらに1枚のコインを加えて実に4種類のコインに変化するSpellboundも見られますが、このあたりが数でのバリエーションでは限界ではないでしょうか。

さて、Double Faced Coinを用いるという発想は、Earl Nelson以前にもSol Stoneの作品などに見られます。「One-Hand Triple Spellbound No.1」がそうですが、この作品の場合、手順のすべてを片手で行うという技巧的なチャレンジが見て取れます。さらにSol StoneはGimmicked Coinを用いず、3枚の異なるレギュラーのコインを用いてこのプロブレムに挑んだ作品「One-Hand Triple Spellbound No.2」を発表していることも付加しておきます。タイトルのとおり、この作品も片手のみで行うものです。

レギュラーのコインで行う手順として少し毛色の変わったものに、「Triple Bounce Change Spellbound(Paul Gertner)」などがありますが、これはコインを指先でなでて変化させるのではなく、手から手に投げ渡す動作のうちに変化させるものですから、厳密に言えば、Spellboundとは異なった作品と言えるかもしれません。連続した2度のFake PassとSleevingを行う非常にテクニカルな手順です。


(参考)

◆ Book
・Paul Gertner「Triple Bounce Change Spellbound」『Steel and Silver』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1994
・Sol Stone「One-Hand Triple Spellbound No.1・2」『Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1981

◆ Lecture Note
・Earl Nelson「Triple Spellbound」『アール・ネルソンの本 The Earl Nelson Workbook』(二川滋夫訳/マジックランド)

◆ Video
・Brad Burt「Triple Change Variation」『Brad Burt's Private Lesson Video Series Advanced Coin Technique: Spellbound』(Brad Burt's Magic Shop)1990