The Winged Silver/ウイングド・シルバー
書籍『Expert Coin Magic』収録(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1985
ビデオ『David Roth's Expert Coin Magic... Made Easy ! Volume1』収録(A-1 Multimedia)1995
David Roth/デビッド・ロス

演者は4枚の銀貨(ハーフダラー)を取り出して、テーブルに並べて示します。それらを1枚ずつ取り上げて全部を右手に握りますが、マジカルジェスチャーをかけ、手の平を下にして両手を開くと、左手の下から1枚のコインが、右手の下からは3枚のコインが現れます。コインが1枚、右手から左手に見えない飛行をしたわけです。

続いて、今移動した1枚を左手に、残りの3枚を右手に握りますが、同じようにコインが飛び移り、左右2枚ずつになります。さらに2度コインの移動が繰り返され、最後には4枚すべてが左手に移ってしまいます。

David Rothの名を一躍有名にした、Coins Acrossの手順です。この作品がCoins Acrossのひとつの典型となり、かくも多くのバリエーションを生み出すこととなった理由は、Finger-tip Utility Moveとでもいうべき画期的な技法、Shuttle Passが用いられたことに尽きるでしょう。この技法の考案によってハンドリングの無駄が極端に減り、非常にクリアで美しい手順が実現されました。

通常のUtility Moveがそうであるように、Shuttle Passもそれ自体が自然なあらためとなっている技法です。つまり手から手にコインを渡す動作によって、それ以外の(余分な)コインを保持していないことが消極的に示されるわけです。動作の自然さという点で、Shuttle Passはきわめて理想的なMoveだと言えるでしょう。
 が、しかし、Coins Acrossの作品の中には、同じ技法を繰り返し用いることに抵抗を覚える向きもあり、そういった流れを汲む作品に「O.O.S.P.C.A.」があります。タイトルは“Only One Shuttle Pass Coins Across”の意。考案者Chris Kennerの狙いは、コインの移動をその都度異なった方法で行い、Shuttle Passの使用をもっとも効果的な一点に抑えることだったのではないでしょうか。

4枚のコインがそれぞれ異なった方法で手から手に移動するというプロットは、構成の自由度が高く、Creatorの心理を刺激するであろうことは想像に難くありません。しかし「The Winged Silver」に見られる、一定のルールに則って繰り返される移動現象には、優美な緻密さとともに手順としての力強さを感じます。

最後に。
「The Winged Silver」からは多くのバリエーションが派生したと上記しましたが、Edge Grip Display、Edge Grip Load を効果的に使用した作品が、David Roth自身によっても発表されたことを付記しておきます。手に握り込むコインの枚数を直前まで客に確認させ、移動の不可能性をいっそう高めようとしたマニアックな作品で「High Flying Winged Silver」「Winged Silver on Edge」などのタイトルで書籍に収録されています。


(参考)

◆ Book
・Chris Kenner「O.O.S.P.C.A.」『Out of Control』(Chris Kenner and Homer Liwag/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1992
・David Roth「High Flying Winged Silver」『Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1981
・David Roth「The Shuttle Pass」「Winged Silver on Edge」『Expert Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1985