Copper-Silver & Brass Transposition/カパー・シルバー&ブラス・トランスポジション
Johnson Productsより製品として発売
 

演者は銀貨(ハーフダラー)、銅貨(メキシコの20センタボ)、チャイニーズコイン(イミテーションの中国の貨幣)の3枚を示します。
 いったん3枚を左手に握ってから銀貨だけを抜き取り、それを右手に握ります。今、右手には銀貨1枚、左手には銅貨とチャイニーズコインがあるはずですが、一瞬にして左右の手の中のコインが入れ替わってしまいます。この交換現象が何度か繰り返されます。
 最後は抜き取った銀貨をポケットに入れてしまいますが、それでもコインが入れ替わって、手には銀貨が戻ってきており、ポケットに銅貨とチャイニーズコインがあることが示されます。

有名なGimmicked Coinのひとつで、日本では「Three Coin Trick」などの名前で知られる製品。チャイニーズコインの中央に穴があいており、そこから向こう側が見えるために、仕掛けを連想させにくいのが巧妙な点です。

銀貨と銅貨の交換現象はコインマジックのクラシックテーマであり、昔から数多くの手順が発表されています。その発展形として貪欲なマジシャンたちが、3枚目のコインを加えたTranspositionというプロットを生み出したのも、さほど不思議なことではありません。
 手順が煩雑になりがちな多くの作品の中で、「CopSilBrass(Geoffrey Latta)」は1枚のDouble-faced Coinを用い、このプロブレムに対して比較的スマートな解決を図った作品です。どこまでハンドリングをシンプルにできるかということが、このプロットに課せられた最大の課題だと言えるでしょう。そういった事情を背景に、まったくのNon-SleightでThree Coins Transpositionを実現しようとしたのが、このGimmicked Coinだったわけです。

さて、Effectに示した手順は添付されている解説書のものですが、これには不満を持つ演者が多いらしく、多くのマジシャンが独自の手順を発表しています。不満の最たるものは「クライマックスがない」というものでしょう。握ったコインが一瞬で変化する現象は、本当の奇跡かと思うくらい鮮やかなのですが、その手順を終わらせるに足るクライマックスがないのです。いちばん最初の変化がもっともダイナミックな現象で、手順を進めていくと同じことの繰り返しになる、という演技は避けたいものです。

The Mystery on the Aztec-Orient Express(John Bannon)」は、コイン・パースを使用することで、ポケットワークを可能な限り減らした作品です。それぞれ異なった方法で3度の交換現象が起こりますが、最後の交換に唯一のポケットワークを使い、ギミックコインの処理を行っています。

しかしそれ以上に特筆されるべきは、この手順の中で使用される「Take Two Switch」という技法だと思います。このギミックコインを使用した変化現象では、上記のように「1度すべてのコインを左手に握り、そこから銀貨を1枚だけ引き出して右手に握る」という動作が多く見られますが「Take Two Switch」はテーブルにある3枚のコインを軽く指先で揃え、そのうちの2枚を取り上げただけに見えて、実はスイッチが完了しているという非常にクリーンな技法です。

また、少し異なったアプローチをした作品に「Trio in Three(Gary Kurts)」があります。「CSB Transposition」のギミックと2枚のカードを組み合わせることで、手に握ったコインが消えてテーブルに置いたカードの下に現れるなど、単なる交換にとどまらない変化に富んだ現象を実現しています。Paul Gertnerが考案したScoopなどの技法を用いており、Coin Assemblyのテイストが随所に感じられる作品と言えます。


(参考)

◆ Book
・Fernando Roman「C.S.B.on the Fly」『Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1981
・Geoffrey Latta「CopSilBrass」『Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Greenberg)1981
・John Bannon「The Mystery of the Aztec-Orient Express」『Smoke and Mirrors』(John Bannon/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1991

◆ Video
・Gary Kurts「Trio in Three」『The Gary Kurts Video Volume1 "Let's Get Flurious"』(A-1 Multimedia)1991