Silver Extraction/シルバー・エクストラクション
Johnson Productsより製品として発売
 

演者は銀貨(アメリカのハーフダラー)をよく示し、これを左手に握ります。ポケットからライターを取り出して火をつけ、握った左手を下からゆっくりとあぶっているとやがて熱で銀が溶け出したかのように、いびつに変形した銀塊が左手からゴロンと出てきます。左手を開くとそこには銀が抜け落ちてしまった透明なハーフダラーが残っています。

Extractionとは「抽出」の意。ハーフダラーに熱を加え銀を分離させるという現象からの命名です。と言っても、Cigalette through Coinのように精密な機構が内蔵されているわけではなく、この製品自体は技法を用いて変化現象を見せるための素材にすぎません。その意味ではこれをGimmicked Coinに分類するのが適切かどうか、意見が分かれることと思います。

物体がまったく違ったものに変化する現象は非常に客受けしますが、この種の手順の解説を文献に求めると、その数は意外と少ないように感じます。思うに、技法と現象が近すぎるためFake Passの説明がそのまま手順になりうるから、というのが主たる理由ではないでしょうか。「Spellbound(Dai Vernon)」のように客の予想をいちいち裏切りながら繰り返しコインが変化するといった手順ならいざ知らず、手から手に渡したコインがただ1度変化する現象であれば、技法以上の解説を詳細に行う必要性が低いということが言えると思うのです。

さて、それであればこそこういった手順では、変化後の状態が興味の大半を占めると考えます。「コインを握り温めると石ころになってしまう」という現象には、たとえ十分な不思議さがあってもあまり魅力が感じられないでしょう。「銀が溶け出しその後に抜け殻のように透明なハーフダラーが残る」という幻想的な設定であるからこそ、客の心を強く捉えるのではないでしょうか。

溶け落ちた銀塊の表面にうっすら刻印が残っているといったディテールがリアリティを強調し、マニアの蒐集欲をそそる完成度の高い素材となっています。


(参考)

◆ Book
・Geoffrey Latta「Silver Extraction No.1」「Silver Extraction No.2」『Coin Magic』(Richard Kaufman/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1981