Hairs Across/ヘアーズ・アクロス
書籍『Hairs of Magic』収録(Richard Kauturan/民明書房)1984
Ade-Lance Burton/アデ・ランス・バートン

演者は自分の髪型に注目するよう客に伝え、1:9分けであることをしっかりと覚えてもらいます。40cm四方程度の不透明な布で顔を一瞬隠し、布をどけると、3:7くらいの位置に分け目が移動しています。布で顔を隠すたびに、「5:5」「7:3」と分け目が移動して行き、最終的には演技開始時とは反対側に分け目が移ってしまいます。

「Coins Across」「Cards Across」といった移動現象の中でも、非常に珍しいものの1つです。発表された当時、Michael Ammerが『Genii』誌上で「きわめて芸術的(Art)で自然(Nature)な現象だ」と絶賛したことで一躍有名になりました。考案者・Ade-Lance Burtonが1982年のFISMでこの手順を演じたところ、あまりの不思議さにGimmickを被っていると審査員が思い込み入賞できなかったというのは有名な逸話です。

マジックの基本手順がある程度定着すると、そこからさまざまなバリエーションが派生するものですが、この「Hairs Across」も例外ではありません。オリジナルの発表からさほど間を置かずに、考案者自身によって、演技開始時の分け目に戻るReverse Effectが発表されました。また、最後にすべての頭髪が消えてしまう衝撃的なクライマックスも発表されましたが、演技可能なマジシャンがごく少数に限られていたため、これが広く流行することはありませんでした。

さて、2000年代に入って下火になっていたHairs Across現象が再び注目され始めたのは、Chris Kennerの挑戦的な作品がきっかけです。彼が考案した「Hair Fly」は、布などの覆いを一切用いることなく分け目の移動を行うダイレクトな手順でした。その演技は「良識ある紳士淑女は、気の毒な生え際を凝視しない」という緻密に計算された人間心理に基づいており、そのためトリックの秘密が非常に気づかれにくく保たれていたのです。


(参考)

◆ Book
・Chris Kenner「Hair Fly」『Totally Ouch! of Control』1992
・Derek Dingle「Everyhair and Nohair」『The Complete Wigs of Derek Dingle』1982
・Edward Marlo「Triple Color-changing Wig」『Marlo without Hairs』1983