Russian Roulette/ロシアン・ルーレット
書籍『Modern Vodka Magic』収録(Richardkov Kaufmanski/民明書房)1991
Pirosiki Goldstein/ピロシキ・ゴールドスティン

ロシアを代表する酒・ウォッカと、ミネラルウォーター(以下、水)を使ったマジックです。

演者は同じ形のショットグラスを5つ用意し、テーブルに並べます。そのうちの1つにボトルからウォッカを注ぎ入れ「これは強い酒だが無色透明で香りもほとんどないため、見た目では水と区別がつかない」と説明します。残り4つのグラスに水を注いでウォッカのグラスと並べ、たしかに外見では区別がつかないことを確認します。

次に演者は後ろを向き、客に好きなだけグラスの位置を入れ替えてもらいます。合図があったら演者は向き直り、任意のグラスを取り上げておもむろに中身を飲み干しますが、それはウォッカではありません。この後、客とやりとりしながら次々とグラスを空けますが、演者が飲むのは水ばかりでウォッカのグラスを引き当てることはけっしてありません。

結局、演者は無事にショットグラス4つの水を飲み干します。最後に1つ残ったグラスがウォッカであることを客に確認してもらい、演技を終えます。

演者が特定の“当たり”を必ず引き当てる、もしくは絶対に引き当てないというマジックは、取り立てて新しいものではありません。しかしそんな中でこの「Russian Roulette」は、ハンドリングが公明正大で現象がわかりやすいこと、用いる素材の特殊性といった点で、従来の同種の手順とは一線を画したものとなっています。

少しタネに触れてしまいますが、この作品はもっとも単純なForcing Deckと同じ原理、つまり“すべてを当たりにしておく”手法によって構成されています。Evianのペットボトルにウォッカを入れるだけでリセットが完了しますから、テーブルホッピングにも適した手順だと言えるでしょう。

1つめのグラスを飲み干した後、演者は「ふうう、このグラスは水でした。よかった…。ウォッカをこんなふうに一気飲みしたら、たいへんなことになってしまいますよね」などと客に語りかけます。こういったフレンドリーな会話が、この手順を盛り上げる重要な要素です。
 2つめのグラスを空けて「プハー、またまた水でした。ラッキーれす。もしこれがウォッカらったらと思うと、ぞっとしますね」。3つめのグラスを空けて「だんだん楽しくなってきましたよ、ヒック。これでもう確率は1/2れすね。あれ、1/4かな…?」。このあたりで客席はかなり盛り上がっているに違いありません。
 演技を最後まで終え「不思議れしょー? もう一度、見たいれすかー?」と客に問い掛けたとき、客席の興奮は最高潮に達するはずです。そこで演技を終えることが到底できないほどに。考案者であるPirosiki Goldsteinも「この作品は私が発表した中で、もっとも頻繁に再演をリクエストされる厳しいトリックだ」と述べています。

「Russian Roulette」が発表された翌年、用いる酒の種類を変えた「Tequila Sunrise/テキーラ・サンライズ(タイトルは、朝焼けのごとく徐々に赤らむ演者の顔色に由来)」という改案も発表されています。この手順には、演技開始時にテキーラをほんの少し口に含み「こんなに少量でも口の中が焼けるようです」と言って、ペットボトルから水をゴクゴク飲むという秀逸な「あらため」が盛り込まれており、後年のスタンダードとなって定着しています。


(参考)

◆ Book
・Chris Kenner「Tequila Sunrise」「Ultimate 3 Glass Monte」『Totally Out of Control with SAKE』1992