Puzzle Paradoxe
 
 

演者は小さな箱の引き出しを開け、その中にある木製のパズルを客に示します。パズルはいくつかのピースを組み合わせて長方形になっている状態で、ピッタリと引き出しに収まっています。

引き出しからすべてのピースを取り出してテーブルに並べ、位置を変えてバラバラにします。箱と引き出しは脇に寄せておきます。客に「最初の形に戻す」と告げ、ピースを組み合わせて再び長方形を作ります。

ここで演者はポケットから小さなピースを1つ取り出し「この一片を加えても長方形を作ることができる」と言います。まず、追加ピースを長方形の縁にくっつけます。これだけでは飛び出した部分がありますが、いくつかのピースを並べ直すと“でっぱり”がなくなり、たしかに長方形ができています。
 さらにポケットからもう1つの追加ピースを取り出します。先ほどのものの2倍の大きさですが、それを加えて並べ替えても長方形が作られます。

2度にわたってピースを追加したにも関わらず、ピースを引き出しに入れると不思議なことに全部がピッタリと収まります。引き出しを箱に戻し演技を終えます。

「任意の図形を切り分けて並べ替えると全体の面積が変わる」または「任意の図形にピースを追加しても面積が変化しない」といったパラドックスは、パズルの世界では実は非常に有名なものです。しかしそれだけにこの「Puzzle Paradoxe」には、なんとも判断しがたい懸念がつきまとっているように私は思います。

この手順において、ピースを加え2段階にわたって演者が全体を長方形に組み替えていく部分は、客の興味をかきたてる非常に魅力的なパートですが、この部分に不思議さはありません。よくできたパズルの解答を演者が披露し、その巧妙さを共有して盛り上がるといった段なのです。

「最終的に引き出しにすべてのピースが入る」ことが、実はこの手順におけるマジックとして唯一の「現象」です。前述のようにこの種のトリックにはすでにパズル的に美しい解決がなされており、なまじそれが有名なだけに同様の現象をマジックとして提示した場合、客が「小さな追加ピースなら入るのだろう」と考えるのではないか、というのが私が感じる不安なのです。これは杞憂でしょうか。

実際は、何らかのマジック的手法を用いなければこれほど大きなピースを加えることはできません。が、しかし客がそう思い込んだ時点ですでにピースのサイズは問題の中心ではないでしょう。


(参考)

◆ Puzzle Products
・小田原充宏「ワンダーパズル01・02」(クロノス/学研)2007
・植松峰幸「ユダの方舟」(土屋木工所)2003
・鈴木徹「ゴーストパズル」(株式会社テンヨー)2004