Ultimate Magic Square 〜That's Magic〜/究極の魔方陣
マジックランドより製品として発売
Christoph Wasshuber/クリストフ・ワスーバー

トランプほどの大きさの16枚のカードを使います。それぞれのカードには両面に1つずつ、大きく数字が印刷されており、中には0やマイナスの数字もあります。

演者は客に3つのダイスを想像してもらい、頭の中でそのダイスを振るように指示します。客にそれぞれの目(数)を伝えてもらい、3つの数が明らかになったら間をおかずに演者はテーブルにカードを配り始め、最終的に4×4にカードが並ぶようにします。

客が指定した3つの目を合計して(仮に10だったとします)テーブルのカードを見ると、10の魔方陣になっていることがわかります。すなわちタテ・ヨコ・ナナメ(対角線)に並ぶ4枚に書かれた数字の合計が、それぞれすべて10になっているのです。また四隅にできた2×2のブロックの合計もすべて10、中央の2×2の合計も10になっていることが判明します。

テーブルにカードを並べるにあたって、何枚かのカードは裏返してから置きます。これはSecret Moveではなく演者の意志で明らかに特定のカードを裏返しながら置いていくので、作為的に何らかの並びを作ろうとしていることは客にも伝わります。ですからこの作品の場合、マジックというよりも超人的な計算能力のパフォーマンスという演出のほうが、説得力を持ちうるかもしれません。

この作品を構成する基本原理は実は古くから知られているもののようですが、発想の方向が既存のものとは逆であることが、この「Ultimate Magic Square」の画期的な点です。この点についてもう少し詳しく説明します。

両面に数字が書いてあるパケットから数枚を客が選び、好きな面を表に向けてテーブルに置くとその合計が予言されているという現象は、数理トリックの中ではしばしば見られます。これを実現する方法は過去さまざまに考案されてきましたが、代表的なもののひとつはカードの裏表の数字に法則性を持たせることで、作品には「Number Numb-er(Jerard Kent Hartman)」などを挙げることができます。これらの作品の骨格である「客の選択した数の合計が演者によって予言されている」という原理を逆にたどることで「客の指定した数が合計となるように演者がカードを並べる」という演技が可能になるのです。この発想に魔方陣という要素を付加し、あらたなプレゼンテーションを考案したことが、Christoph Wasshuberのオリジナリティと言えるでしょう。

「Ultimate Magic Square」には2つのバリエーションがあります。発表された順で言うと「That's Magic」という副題の製品(上記手順)がまず発売されました。4×4に並べたときに、魔方陣全体に「That's Magic」の文字が浮かび上がることからの命名です。このことは疑い深い客が抱く「指定する数によって、配る位置を変えているのではないか?」という疑問に、暗黙の解答を示すことにもなります。

その少し後に、副題「Jigsaw・K」の別バージョンが製品化されました。これは「That's Magic」の文字の代わりに、魔方陣全体の地にハートのキングを描いたもので、カード当ても同時に行おうという発想に基づいたものです。魔法陣の完成と同時にキングの絵柄が浮かび上がっているという演技ができ、さらに表側では魔方陣の完成を、裏側ではハートのキングの完成を示すという凝った演出も可能になっています。

特に数理トリックでは、客に意味もなく複雑な作業を強いるものは二流です。また「どんな過程を経ても結果は同じなのだろう」と客に感じさせる(実際にはそうでなくとも)ような手順も、優れたものとは言えません。「Ultimate Magic Square」は多くの点で、優秀な数理トリックの要件を満たしていると考えます。


(参考)

◆ Booklet
・Jerard Kent Hartman「Number-Numb-er」『Richard's Almanac日本語版 Vol.3 No.30』(安崎浩一訳/マジックランド)1994

◆ Products
・二川滋夫「フォー・テル・オン・ダイス」(マジックランドより製品として発売)