The Crazy Man's Handcuffs/クレイジー・マンズ・ハンドカフス
レクチャーノート『The Crazy Man's Handcuffs』収録(Michael Ammer/Magic City-Paramount)1989
Michael Ammer/マイケル・アマー

演者は2本の輪ゴムを取り出し、1本を左手の親指と人差し指の間に掛けます。今、開いた親指と人差し指、そして掛けた輪ゴムで三角形ができていますが、その三角形の中に上からもう1本の輪ゴムを落とし、1本目と同様に右手の親指と人差し指に掛けます。

今、両手の親指と人差し指に輪ゴムが掛かっており、2本は交差しているので、両手を離すと輪ゴムは中央で絞られた状態になります。指から輪ゴムをはずさない限り2本の交差は解けないはずですが、一切の覆いもなく1本ずつ溶けるように輪ゴムが貫通し、離れてしまいます。
 さらに2度、同じように輪ゴムを貫通させます。1度は後ろ向きとなって肩越しに、さらにもう1度は両手を高く上げて真後ろから見せますが、なぜはずれるのかわかりません。

最後に1本の輪ゴムを客の両手の間に張ってもらい、そこに交差させるように演者が右手で輪ゴムを張りますが、手を数回左右に動かすとやはり輪ゴムは貫通し、離れてしまいます。

この輪ゴムの貫通現象は、英国のマジシャンArthur Sutheringtonの原作で、Herbert Zarrowがハンドリングを改良したものだと言われています。その後、Dennis Marks、Bob Jardine、そしてDavid Copperfieldといった多くのマジシャンの手を経て洗練され、有名なアクトになりました。ですから「The Crazy Man's Handcuffs」は、Michael Ammerの創案によって生まれた作品ではありません。が、しかし、この現象が一級のEntertainmentたりうるように理論に裏打ちされたハンドリングとして整理し、数段からなる詳細な手順を構築したことが彼の功績であると言えるでしょう。

この作品は、Close-up Magicianにとって非常に魅力的な、数々の特徴を備えています。現象が明瞭であることはもちろんですが、仕掛けのないごく日常的な素材で特に準備を必要とせずに、繰り返し演技できて角度に強く、客を参加させることが可能…、と枚挙に暇がありません。

Michael Ammerが発表した上記の手順は、しだいに不可能性を高めるような方法をとりながら同一の現象が繰り返されるものですが、これは場合によっては冗長に過ぎます。現象の基本原理は非常にシンプルに完結したものですから、手順の一部を取り出して演じても十分に成立します。
 例えば「Lingering Rubber Band(安崎浩一)」においては、「The Crazy Man's Handcuffs」の現象自体がクライマックスへの巧妙な伏線となっています。2度目の貫通現象は起こらず、ゆっくりと指から輪ゴムをはずすと、輪ゴムが1本しかないことが示されるのです。「The Crazy Man's Handcuffs」を知っている客ほど、その驚きは大きいでしょう。


(参考)

◆ Book
・岸本道明「ラバーバンド ペネトレーション」『Winners 厚川昌男賞8人の受賞者』(厚川昌男賞実行委員会・発行 マジックランド・発売)1997

◆ Lecture Note
・Chris Kenner「The Great Rubber Band Escape」『Band across the Globe』(柳田幸繁訳/マジックランド)1990

◆ Booklet
・安崎浩一「Lingering Rubber Band」『マジックハウス Vol.1』(二川滋夫編/マジックハウス)1991