Pinnacle/ピナクル
DVD『Pinnacle』収録(Russ Niedzwiecki/Bell Productions Services Inc.)2003
Russ Niedzwiecki/ルース・ニツヴィッキ

左手の親指と人差し指の間に輪ゴムを張り、そこに指輪を持った右手を近づけます。右手指先で輪ゴムを引っ張る動作をほんの一瞬行うだけで指輪と輪ゴムがつながります。右手で指輪を動かして輪ゴムを軽く引っ張り、たしかに連結していることを示します。
 さらに指輪を動かすと、張られた輪ゴムの両方の直線部分が指輪の中に入ってしまいます(これは正確に言えば環が重なっているだけで、つながっている状態ではありません)。

ここからさらに指輪を動かすと、再び輪ゴムと指輪が連結している状態になります。右手の指輪で輪ゴムを引っ張り、また左手を返して輪ゴムをさまざまに動かしたりして、指輪と輪ゴムが連結していることを明白に示します。客にその状態を注目させながらゆっくり右手を引くと、鮮やかに輪ゴムから指輪が外れます。

最後に左手をやや高く挙げ、親指と人差し指の間に水平に張った輪ゴムに右手の指輪を近づけると、指輪は鮮やかに輪ゴムに連結します、輪ゴムに指輪がぶら下がった状態を右手を添えずに示します。右手で指輪を引っ張ると指輪は輪ゴムから外れ、もう一度近づけると一瞬で再び連結します。指輪と輪ゴムが本当につながった状態で客に手渡し、あらためさせることができます。

貫通はマジックにおけるポピュラーなEffectですが、その中でも一方もしくは双方が環になっている物体の連結はよく見られる現象です。連結と一口に言ってもそれを達成する方法はさまざまで、Himber Ringのように特殊な機構を内蔵した製品を使う手順や、いわゆる一般的なLinking Ringのように、大胆なGimmickをSleightでカバーする方法などがありますが、この「Pinnacle」は仕掛けのない指輪と輪ゴムを用い(第4段は除く)、SleightによってLinking現象を達成する作品です。

この種の手順では、つながった状態をいかに明確に示せるかが大事なのは言うまでもありませんが、連結状態に至る過程をどれだけクリーンに見せられるかということも同様に重要なことだと考えます。難解なあやとりのように輪ゴムをゴチャゴチャと指から指へ移し替えていたのでは、たとえ完成形が非常に美しかったとしてもその効果は相殺されてしまうでしょう。
 「Pinnacle」でLinking現象を達成する基本原理自体は、実はRuss Niedzwieckiの創案ではなく既存手順の応用にすぎません。ですがこの作品で評価されるべきはその原理ではなく「1、連結状態が完成するまでの速さと動作の単純さ」そして「2、連結の状況を認識させるMoveの説得力の高さ」に尽きると考えます。

「Pinnacle」の4段目では本当に指輪と輪ゴムがつながり、客にあらためさせることが可能です。非常に鮮やかで不可能性の高い現象ですが、演技の最後に必ずしもこの段を行わず第3段までの美しい連結現象で手順を終えてしまっても、この作品は非常に魅力的な小品として完成されていると思います。第4段の「本当のLinking」には独自のやや複雑な準備が必要であり、客との距離感や見せ方も1〜3段とは若干異なるからです。ですが、もしこれを完璧にこなすことができれば効果は困難を補って余りあるでしょうし、貪欲なマニアをも確実に唸らせることができるに違いありません。


(参考)

◆ Book
・Chris Kenner「Missing Link」『Totally Out of Control』(Chris Kenner & Homer Liwag/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1992

◆ Booklet
・Bill Kalush「Rubber Ringer」『Richard's Almanac日本語版 Vol.2 No.13』(安崎浩一訳/マジックランド)1992
・Michael Weber「Flash Link/Linking Stanley」『Richard's Almanac日本語版 特別増刊号』(安崎浩一訳/マジックランド)1992