Screwed Deck/スクリュード・デック
書籍『A Close-up Kinda Guy』収録(Paul Harris/Tannen Magic Inc.)1983
Paul Harris/ポール・ハリス

いくつかのカードマジックを見せ終わった後、演者は今日の演技が終わりであることを客に告げます。デックを片付けるためにテーブルの下から小さな木製の箱を取り出しますが、それは明らかに小さすぎて中にデックは入りそうにありません。小箱をいったんテーブルに置きます。

置いてあったカードケースを取り上げてそれまで使っていたデックを入れ、フラップを閉じます。即座にケースの両端を持って手首をひねると、ケースが半分から割れて回転を始めます。よく見ると、まるでビリヤードのキューのように一方(1/2デック)から太いネジが突き出しており、他方(1/2デック)に刻まれた溝に入って固定されていたことがわかります。

さらにクルクルと回し続けるとネジが弛み、デックは2つに分かれてしまいます。小さく分割されたそれぞれの断片を小箱にしまい、演技を終了します。

奇才・Paul Harrisが考案した、他にあまり類型の見当たらない奇妙な作品です。「Screwed Deck」には、少なくとも(私が知る限り、という意味ですが)2つの手順が存在します。Ending Actにふさわしい上記の手順がオリジナルですが、その後、Paul Harris自身が改良を行い、Opening Act向けに再構築されたハンドリングを発表しました。現象は以下のとおりです。

演者は、ケースごと2つに分断された奇妙なデックを客に示します。一方の断面からは太いネジが突き出ており、他方にはネジの入る穴が空いています。ネジと穴の位置を合わせ、1/2デックを回転させて溝にネジを埋め込んでいきます。それ以上動かないポイントまでネジを締めケースを傾けると、中から完全なデックが出てきますが、ケースの表と裏が食い違っているため出てきたデックも半分が裏で半分が表という間違った状態になっています。ケースをテーブルに置き、デックを両手で持ってひねると裏表が正常な状態に戻ります。カードを両手の間にスプレッドしながら両面をあらためます。

この改案は、多くの人の手によってたびたび製品化されました。私の手元にあるのは1991年にPalmer Magic社によって製作された「The Paul Harris Screwed Deck」という商品名のもので、解説書には「すり替え不要の合理的な新手順(In Paul's new streamlined version there is no deck switch.)」という謳い文句が書かれています。

両者はGimmickの構造こそほとんど同一ですが、原案はデックを片付ける、改案はデックを取り出すというもので、まったく対照的な現象を目的としています。改案はレギュラーデックでの演技を続けられることが利点だと思います。見た目のインパクトも強く派手さで言えばこちらに軍配が上がるでしょうが、「不可能な形状への分割」という不条理さが奇妙な余韻として後を引くという点で、オリジナルにも捨てがたい魅力があります。


(参考)