■ ブームが去るのをじっと待つ

数年前に巻き起こった狂乱の赤ワインブームを覚えている人は、もう多くないかもしれません。「ワインに含まれるポリフェノールが動脈硬化や脳梗塞を予防する」という説が一躍脚光を浴び、まるで健康飲料であるかのごとく、突如赤ワインが崇められた時期がありました。
 しかしそのずっと以前からごく当たり前に赤ワインを楽しみ続けていた人たちは、ワインが何やらご大層な飲み物のように祭り上げられ、猫も杓子も小難しいウンチクを傾けながらくるくるとグラスを回していたあの状況を、どのように感じていたのでしょうか。おそらく諦めと苦笑を含んだ視線でごく冷静に眺めていたのではないかと想像します。

ふとしたきっかけで特定のジャンルに注目が集まり、雑誌やテレビなどのメディアが情報を垂れ流してしまうと、訳知り顔の「にわかマニア」がイナゴの大群のごとくメチャクチャに襲いかかってきます。いったんそうなってしまったら、それまで慎ましくその趣味を楽しんできた人たちが採るべき唯一にして賢明な行動は、頭を低くしてその嵐が過ぎ去るのを待つことのみです。

このところテレビ番組にマジックが取り上げられることが多く、またその際、必ずと言っていいほどタネあかしがセットになっていることを、殊更に嘆く声が聞かれます。声高に抗議する側の主張はたしかに正論だと感じるのですが、私個人はメディアの厚顔さに辟易し、同時にイナゴたちの貪欲さにウンザリして追い払うことを放棄してしまっているというのが実は本音です。危機感が足りないと叱られてしまうでしょうか?
 世間は思いのほか飽きっぽいものですから、しばらく放っておけば遠からず必ず熱は冷めます。本来マジックなんてきわめて特殊な趣味ですから、すぐに誰も見向きもしなくなるはずですし、そういう状況をこそ私は強く望んでもいます。

「思ったより長くブームが続いたら」と懸念する方もいるでしょうか? 大丈夫、心配いりません。「赤ワインのポリフェノールで健康に!」などと叫んでいる人は、もう一人もいないでしょう?