■ ディック・ブルーナに憧れる

ディック・ブルーナという絵本作家を知っていますか? 世界一有名なうさぎ「ミッフィー」(日本では「うさこちゃん」とも)の生みの親です。ブルーナ氏の絵柄はどれも極限まで単純化されているため、一見サラサラと無造作に描けそうに思えるかもしれません。しかし最終的に引く1本の線が決定されるまでに、実は驚くほど膨大なスケッチによる試行錯誤が重ねられていることは、あまり知られていない事実でしょう。単純な絵なればこそ、線や点の位置がほんのわずかに違うだけで、まったく異なった表情になってしまうとの理由からです。

用いる色もまたシンプルを極めています。氏は当初ミッフィーシリーズを描くときに、赤・黄・青・緑の4色のみを使っていました。その後、子犬や熊を描く必要から茶を、ゾウを描く必要から灰色を追加したという経緯を本人が語っています。さらにその6色すべてについて、どの色どうしが隣り合っても互いを邪魔しない、絶妙なバランスが保たれているのは見事と言うほかありません。自然界に存在する無限の色をわずか6色に絞り込み、それだけを用いて自らの世界を表現し続けるスタイルには憧れを覚えます。

このように、物事をぎりぎりまで単純化して完成に至るというMethodは、マジックの基本動作にも共通しているように私は感じました。例えばコインを1枚握って消すという簡単な現象であっても、納得のいく動きに仕上がるまでには膨大な反復を必要とするでしょう。練習で留意すべきは、余分な力みを取り去り、不自然なこわばりを消し、手指が不要に動いていないかを確認する…、つまり付加するのではなく削る作業によってSecret Moveが完成に近づくのだと思います。

他のさまざまな事例においても、要素を足すよりも削るほうが何倍も困難な作業であるケースが少なくありません。多くの場合、自然さとは必要最小限であることとイコールなのではないでしょうか。

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■ ディック・ブルーナ公式サイト
http://www.miffy.com/