■ 映像でマジックを学ぶ

『マジックビデオ90選』(三田皓司・松田道弘著/東京堂出版/1996)のあとがきの中で、レクチャー・ビデオの氾濫を評して、松田氏が以下のように述べています。「奇術師があまりにも簡単に自分の大事な秘密をタネあかししてしまうのに、実はかなり驚いている。奇術のトリックの秘密がこんなにもたやすく入手できるのは果たしていいことかどうか。活字メディアだけを頼りに情報を仕入れてきた私には違和感がつきまとう」。

私も多くを書籍で習得してきた世代ですから、この一節には非常に強い共感を覚えました。映像メディアのあまりに極端な手軽さに対して、その普及を歓迎すると同時に、上記と同様の懸念を抱く愛好家は意外と多いのではないでしょうか。

マジックという芸事は他の歌舞音曲とは異なる、非常に特殊な性質を持っています。すなわち、演者は演技を成立させるためのSecretを客に知られぬように守り、客は特別な秘密があることを念頭に置きつつ演者のPerformanceを楽しむ、そういった約束事が暗黙のうちに交わされているということです。秘密を守れない人に演者の資格はありませんし、タネの詮索に忙しい人はマジックの客に向きません。
※ここで言う「向かない」とは、演者の意図どおりにマジックを楽しんでもらえないという意味です。

マジックのSecretが節度なく公開されてしまうことは、演じる側、見る側の両方にとって不幸です。映像メディアの普及が単純にそういった暴挙に直結するとは思いませんが、容易に手に入るものはその扱いがしぜんとおざなりになってしまうのも道理。情報を受け取るために能動的な姿勢を強要する活字媒体がマジックの伝授に非常に適した手法だという思いに、今も変わりはありません。

とは言え、ビデオやDVDといった映像メディアに対しことさらに忌避の念を表明するつもりも、実は私にはないのです。マジックの演技を動画で見るのと書籍で手順を読んで効果を想像するのとでは、音楽を聴くのとその楽譜を眺めるくらいの差がありますし、マジックで重要なさまざまな要素を学ぶ際、活字より映像のほうが圧倒的に有利な側面を持つこともまた事実だからです。好むと好まざるに関わらず、マジックを書籍で学ぶというスタイル自体が徐々に過去のものになりつつあることは、もはや認めざるを得ないのではないでしょうか。