■ 古いタネの公開が新しいマジックを生む?

---プロマジシャンの中には、何十年も同じタネで同じ演技をしている人たちがおり、それがマジックの進化を妨げている。これを打破するために旧弊なタネはいっそ客に公開してしまおう。すると新しいタネが必然的に生み出されマジックが進化する。それについていけない保守派は淘汰されてもやむを得ない---

信じられないことですが、このようなバカげた主張を続けている人たちがいます。反論の必要を感じないほどあらゆる意味でナンセンスな論理ですが、「バカげた」とまで決めつけた手前、私の個人的な見解を手短にまとめておきます。

まず言いたいのは、タネの新しさが現象の新しさに反映されない限り、それは客にとってまったく意味をなさないということです。客から見えない部分に遊びを織り込むのは愛好家ならではの愉悦ですが、「同じトリックを違うタネで演じている」といったマニア特有の自己満足を、マジックを演じない一般の客にも当てはめて考えてしまう演者は二流です。この一事だけでも「新しいマジックを生み出すために、古いタネを公開する」という彼らの行為がまったく的外れなものであることがわかるでしょう。

Classic ForceやClassic Passといった古典技法の多くは、それ以上ないほど単純な原理のもとに完成されています。この単純さこそが優秀なタネの条件であることがわかっていれば、それをさらに進化させるのが並大抵のことではないと当然理解できるはずです。タネあかし推奨派が行っているのは、古典的な傑作から力強さを奪い、美しさを歪め、不思議さを剥ぎ取る行為にすぎません。

最後に道義的な見地から意見を述べます。私はこれまでさまざまな作品に接してきました。その結果、個々の手順や技法、Gimmickはそれぞれが孤立して存在するものではなく、互いに影響を及ぼし合ってマジックというPerformanceを進化させてきたとの考えを持っています。このような理由から私は、古いタネを大事にできない人は数多の先人への礼を失していると考えますので、そういった人たちに敬意を払うことは、私にとって非常に難しいことです。