■ だったら外国人にだけ見せればいい

こんな嘆きをときどき聞きます。
外国人はマジックを正当なEntertainmentとして認め、非常に好意的に受け止める。現象が起こったときにはオーバーに驚き、笑い、悩み、自分から雰囲気を作り出して楽しんでくれる。それに対して日本人は、タネはどうなっているのだろうといった詮索ばかりで、まず楽しもうという姿勢がない。現象が起こっても素直に驚くのは恥だといった風情で大きな反応がなく、こちらが盛り上げようとしているのになかなか乗ってこないので演技がとてもやりにくい。

国と国が限りなくBorderlessになったとは言え、国民性の違いはたしかに存在し続けています。集団生活を営む上で、個人の意見を明確に主張することを求められる社会と、当初は主張を押し隠すことが美徳とされる社会とでは、状況に対する反応も異なってきて当然でしょう。ですから冒頭に挙げた「マジックに対する反応の違い」も、そういった傾向があるといった程度のコメントであれば理解できなくもありません。しかしときに、あたかもすべての日本人がマジックの鑑賞者として劣っているかのように喧伝する人を見ると、さすがに行き過ぎではないかと思うのです。

それらはまったく見当違いの愚痴であり、ほとんどの場合、演者の実力不足を隠蔽せんがための意図的な曲解に過ぎません。同じ日本人を楽しませることのできないマジシャンが外国人を満足させることなど絶対に無理だということは確信を持って主張できますし、「外国人が相手だとやりやすい」という発言は、彼の周囲にきわめてマナーの悪い日本人しかいないという、悲惨な環境の告白だとすら考えてしまいます(カワイソウに…)。

しかし何と説得されても、冒頭に挙げたような考えが依然捨てられない人もいるでしょう。もしそうであれば、無理に日本人に見せて不愉快な思いをする必要はまったくありません。Entertainmentの享受に長けた外国人にだけ見せるのだと、ポリシーを固めればよいだけのことです。客を選べることもアマチュアの大きな特権ですし、趣味でマジックを楽しむ分にはまず自分が満足できることが第一なのですから。