■ 言うほど簡単ではない

---モンテ形式のマジックは、客の予想が何度も外れるという演出であることが多いので気をつけなくてはいけない。人によっては、そのやりとりを不愉快に感じることもあるので、「かつて自分が体験した賭け」といった設定にして失敗談として演じると、客に対して挑戦的な態度にならずにすむ---

しばしば見られるこの手のアドバイスは、一見、モンテにつきまとう困難さを一気に吹き払う魔法の言葉のように感じられます。ですが、これを意識することで誰もがすぐモンテ名人になれるほど話は単純ではありません。自分の体験談で相手の興味を持続させるという行為が言うほど簡単でないことはマジックを離れて考えてみれば自明ですし、この場合はそれに加えて、目の前のパケットで起こっている現象の中身を客に理解させながら演技を進めなくてはならないのです。「たしかに挑戦的ではないものの、演者が何をしているのかわからない」という手順になってしまっては本末転倒でしょう。

また仮に、話の運びはスムーズであっても、まだ10代と思しき演者が「以前ニューヨークの路上で賭けを持ちかけられまして〜」などと話しても、客の苦笑を誘うだけです。同じ理屈で「小さかった私に、おじいさんがたった1つだけ教えてくれたマジックです」といった台詞も、David Copperfieldだから様になるのであって、安易に借用すると、丈の合わない服を着ているような演技になってしまうでしょう。

わかりやすく自然な台詞・演出を構築するのは簡単なことではありません。論理の整合性や説得力の強さに加え、それが演技および演者の性質に合致しているかを、客観的に検証する必要があるからです。しかし、きちんと考えられ苦労の末に身につけたスタイルは、容易に他人が真似られるものではありませんし、それが一生の宝となることもまた疑いのない事実です。