■ マジックに求められる意外性とは?

マジックは非日常を現出するPerformanceであると、しばしば定義されます。これを曲解し「演者は常に、客が予想もできないショッキングな現象を繰り出さなければならない」との信念を持っているらしい人を時折見かけますが、これは誤った考えだと私は思います。

予期せぬ派手な現象の連続は客を疲れさせてしまいますし、ときに不思議さを消し去ってしまうことすらあります。ふつうに想像力のある客なら、カードを覚えた時点で演者が最後に何らかの方法でそれを言い当てるのだろうと予想するでしょう。そして、演者はそれを裏切ってはいけません。

マジックにおいて意外性は、たしかに非常に重要な要素です。ですが多くの場合その意外性とは、想像もできなかった結果が待っていたという種類のものではなく、最後に用意された「安心できる結末」に至る過程に、客の予想をほんの少し上回るサプライズが盛り込まれているという程度の意味であろうと私は理解しています。

期待を裏切るのではなく、相手の期待どおりの方向でちょっとだけ上を行く。こういったセンスは一朝一夕で身につくものではありませんが、それを意識している人とそうでない人の演技には、明らかな質の違いが出てくるのではないでしょうか。

【追記】
クライマックスに突飛なもの(予想外に大きい、多い、その場にそぐわないなど)を取り出すことが、客に大きな驚きを与えることは事実です。ですがそれはマジック本来の魅力、すなわち不思議さとは、また違った種類の刺激であろうというのが私の考えです。