■ そのマジックにいくら払えるか

どんなにおいしくても、ワイン1本の値段として5000円は高すぎると考える人がいます。その一方で、本当に満足できるなら5万円でも惜しくないと考える人もいます。あるモノにどれだけお金や時間をかけられるかの基準は人それぞれで、まったく異なっていて当たり前です。

『トランプと悪知恵』に続く、佐藤総氏の2冊目の作品集『card magic designs』が発売されたのは2008年12月のこと。貪欲な愛好家たちが飛びつくように購入したためすぐに品切れとなり、年末のマジック界におけるちょっとしたニュースになりました。
 しかしそれと同時に、値段が高いので購入を見合わせたという声も、Web上で多数目にしました。たしかに一般的に考えて、厚さ1cm程度の本が8000円だったら、購入を躊躇するほうがマトモな感覚だと私も思います(笑)。佐藤氏にもその自覚ははっきりとあり、同書の前書きで以下のように述べています。

「一冊のマジック解説書としては高価と思われるかもしれないこの価格は、実際にかかったコストや内容の自信のあらわれということもありますが、それ以上に、秘密を適切に評価し活用する大人の読者のもとのみにこの本が渡ってほしいという願いを込めて設定しています」

以前からたびたび述べていますが、マジックの世界はある程度敷居が高く閉鎖的であるほうが好ましいと私は考えています。マジックの秘密とは、立ち読み感覚で誰もが気軽に覗き見できるような種類のものではなく、作り手が決めた価格に納得できる人が対価を払い、相応の手順を踏んだ後に初めて入手し得る、そういったものであるべきではないでしょうか。

中身がわからなければ、自分にとって8000円の価値があるか否かを判断できないという主張もあるでしょうが、ワインだってコルクを抜くまで味を知ることはできません。ラベルやカタログを手掛かりに中身を想像し、財布と折り合いをつけてエイヤと栓を抜く行為は、マジック製品を購入するときのそれと似ているかもしれませんね。そして多くの「ハズレ」を経験して目が肥えていく過程もまた、共通点だと言えなくもないでしょう。