■ 写真よりイラストがいい

モノクロ印刷の書籍に限って言えば、マジックの解説図は写真よりもイラストのほうが断然わかりやすいと思います。要は使っている道具と指の位置関係がわかれば十分なのであり、写真はその性質上、どうしても不要な情報を含み過ぎてしまうからです。「Spellbound」を説明するのに、真っ白な円盤と真っ黒な円盤を図にかくのは単純化の典型ですね。指の先に爪がついていれば手の平ではなく甲側だと分かりますし、解説に必要な情報の量は、実はその程度で十分なのだと私は思います。

マジックの関連書籍に限らず、例えば家電製品の取扱説明書の挿し絵なども、たいていが写真ではなくイラストで表現されています。これも「わかりやすさ」を優先させた結果でしょう。たしかに、DTP(Desk-top Publishing)でデジタルデータをそのまま紙に落とし込めるようになった現在では、一点ずつのイラストを新規に描き起こすよりも、デジタルビデオなどで演技を撮影しそこからコマを切り出してページに配置するほうが、確実に安価で手軽です。ですがその場合は、コントラストやシャープネスの調整を入念に行わないと、まったく意味のない図になってしまう可能性があります。一箇所で簡便さを優先させると別の部分に気を遣う必要が出てくるのは、マジックの手順でもよくあることですね(笑)。

いろいろと理屈を書きましたが、初心者の頃に読んだ書籍の解説図がほぼ100%イラストだったので、私がそれに慣れていることも大きな理由かもしれません。実際いまだに、店頭でページをパラパラめくったときに挿し絵が気に入るかどうかが、私にとって購入の判断材料になることもたしかですし。

【追記】
Chris Kennerの『Totally Out of Control』は、イラストに「わかりやすさ」以上の遊びが盛り込まれた傑作だと思います。思わずクスリと笑ってしまう挿し絵の数々は、写真では代用できないユーモアの表現だと言えるでしょう。

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(参考)
『Totally Out of Control』(Chris Kenner and Homer Liwag/Richard Kaufman and Alan Greenberg)1992