■ 鍛えた脳ってどんな脳?

「脳を鍛える○○○」という商品が世にあふれています。より正確に言えば、これまであった商品に「脳」のキャッチコピーをつけることで販売数アップを狙うケースが急激に増えているということです。

単純な計算や文章の音読、書き取り、指先の鍛錬などに取り組むことでボケを防止しようという基本姿勢には大筋で同意できますが、既存のパズルやクイズ、ゲームの類をも強引に「脳力アップ」にこじつける昨今の状況にはちょっと辟易しますね。そんなわけで「パズル誌、花盛り」と題した新聞記事で、ペンシルパズル界の老舗であるニコリの社長がブームを一刀両断にしたのはいっそ痛快でした。

「脳を鍛える」ブームも追い風になっているようだが、ニコリの鍛治さんは「鍛えた脳って一体どんな脳なのよ」と笑いとばす。「きっかけは否定しないけれど、パズルは、軽い気持ちで鉛筆一本で気分転換できるのがいいところ。意味がないことに夢中になれるのがいいんじゃないの」(2006/04/08 朝日新聞夕刊の記事より)

そのうち、マジックが脳の活性化に役立つと本気で唱える人が現れるかもしれません。「複雑なパケットトリックの手順を覚えるから」「数理トリックで、客の指定した数に応じ瞬時に計算を行うから」「ハーフダラーが手の平のツボを刺激するから(笑)」など、その気になればどんなふうにこじつけることだってできるでしょう。

ニコリ・鍛治社長の考えに、私も全面的に賛成です。マジックもパズルも、面白そうだからやってみるという原始的な動機がもっとも健全なものだと思います。楽しんで続けているうちに、副次的に思考力や判断力が向上することもそれはあるでしょう。ですがけっして、それらが目的ではないのです。趣味の本義は利害の外にあるものですし、無駄なことに時間を割けることこそ生活に余裕がある証明ではありませんか?