■ 物事の価値を知るということ

かつて「違いのわかる男の〜」というコーヒーのCMがありましたが、物事の価値を正しく判断できることは非常に重要です。

マジックを始めて間もない頃、あるクロースアップマジシャンの演技を収めたモノクロフィルムを見る機会がありました。当時の私にわかったのは、第一にそのフィルムが非常に古いこと(笑)。そして、肝心の演技はと言えば技術的にかなり高いレベルにあることはわかりましたが、まあ上手いなといった程度の気持ちで見ていたような気がします。

後で判明したことですが、それはFred KapsのPerformanceを録画したフィルムだったのです(大汗)。詳しい経緯は忘れましたがどこかに赴いてそれを見る機会に、若かった私は恵まれました。が、その頃の私にはFred Kapsのフィルムにどれほどの価値があるかがわかっていなかったのです。もし今同じ状況に恵まれれば、私は食い入るように画面を見つめ、ぶしつけにダビングを願い出ることすらあるかもしれません。当時そうしなかった理由はただ、私がFred Kapsの演技の価値を知らなかった一点に尽きます。

実は私はほかにも、マジシャンであれば垂涎の的となるような幸運に何度か恵まれたことがありますが、そのいくつかを軽くいなしてしまい、後日激しい後悔の念を味わいました。物も人も機会も、その価値を正しく判断できていればこそ巡り会ったときに適切に接することができるのです。マジックの世界に限らず、より多くの恩恵を身に受けたいと考えるならば、物事の価値をきちんと把握する努力はやはり必要なことなのでしょう。