■ 家族にタネがばれる理由

「職場や学校では好評のマジックなのに、家族に見せるとすぐにタネがばれてしまう」といった悩みに、しばしばこんな回答が寄せられます。
「家族はこれまで非常に長い時間を一緒に過ごし、あなたの立ち居振舞いをずっと見てきています。ですからあなたが不自然な動きをすると、それが他人は気づかない程度のほんの些細なものであっても、何かおかしいぞと感づいてしまうのです」。

非常に筋の通ったキレイな理屈ですね。しかしそれゆえ元来が天邪鬼な私は、この優等生的な回答にちょっと疑問を感じてしまいます。

たしかに上記のような理由が皆無だとは言いません。ですがあらためて眺めれば、マジックの手順なんて魔法のそれとは違い、不自然なところだらけではありませんか? Atfus MoveやOlram Subtlety、Ascanio Spread、そしてさまざまなFalse Count…。日常生活で同じ動作が見当たるはずもありません。
 しかし私は、これらを使うなと結論づけたいわけではないのです。そもそも「マジックを見せる」という行為自体が日常的ではないのですから、その一連の手順の中に溶け込み突出した違和感がなければ、上記のMoveは皆十分に通用する技法だと考えています。

少し話が逸れました。それでは不自然さという理由以外で、家族にマジックのタネがばれやすいわけとは何でしょうか。それは「家族間には遠慮がないから」だと私は思います。こう言っては身も蓋もありませんが、要するにタネがちらりと見えたとか、何かアヤシイ動きだったと感じたときに、家族ほどの間柄ならば相手の自尊心やサービス精神などを思いやることもなく「今何か見えたよ!」とはっきり指摘できるということです。

家族に特別にタネがばれやすいのではなく、他人は遠慮深く礼儀正しいのでそれを指摘しないだけ、というのは穿った見方に過ぎるでしょうか。