■ マジックのリアルさとは何だろうか?

1938年のある夜、ラジオドラマ「The War of the World(邦題/宇宙戦争)」が、アメリカ市民をパニックに陥れました。「ニュージャージー州に火星人襲来」というラジオからの声に、聴いていた約100万人が家を出て教会などに押し寄せたという記録が残っているそうです。番組構成の妙とかOrson Wellesの演技力云々という問題はさておき、当時、ラジオという媒体を通じた情報の信憑性がそれほどに高かった事実を、ここから伺い知ることができます。

さて、David Copperfieldが自由の女神を消したのは1983年のことです。巨大建造物を消すというEffectを考案・実現したことに彼の非凡さを感じることは言わずもがなですが、現地で少数の客に現象を体験させ、その一連の流れをテレビで中継して視聴者に追体験させるというスタイルを確立した意味でも、その功績は小さくありません。当時の映像メディアに対する人々の心理を的確に捉えた最新のPerformanceであったと言えるでしょう。
 しかし例えば今夜「The Statue of Liberty Disappear」を見たところで、人々の驚きはかつてのそれほど大きなものではないはずです。巨大な恐竜が闊歩し、津波が都市を飲み込んでいるテレビの中で、自由の女神の1つくらい消えたところで…。

映像処理技術の進歩により、今やコンピュータが介在しさえすれば表現できないものは皆無になりました。逆に言えば、実物以上に本物らしい映像を人の手で創り出せるようになった今、大きなものを消せば消すほどTechniqueならぬTechnologyの介在を疑われるようになってしまったのです。「テレビは真実を映す」という了解を前提としたスタイルは過去のものになってしまったと言えるでしょう。

ここで「Real」という言葉について考えてみます。マジックとは幻想です。そして幻想を理解・認識するためには、その基盤に現実(Real)が必要です。Copperfieldがブラウン管を通じて幻想を起こし得たのは、当時のテレビがRealityの象徴であったからにほかなりません。では果たして今の世の中で、絶対的なRealとは何でしょうか? それは取りも直さず、自分の手でシャフルできるデックであり、冷たさと重さを感じることのできるハーフダラーだと思うのです。