■ よい先輩との出会い

幸運なことに私はマジックを始めてすぐ、非常によい先輩に巡り会いました。知識・技術ともに非常に高いレベルにある方で、私に惜しげもなくさまざまなマジックを見せ、手順のみならず演技の見方や作品に対する考え方などを直接間接に教えていただきました。今の私があるのは、多分にその人のおかげだと思っています。

初心者にマジックを教えるのは思うほど簡単ではありません。マニアなら見向きもしないような基本的なKeycard Locationの手順でさえ、きちんと教えようとすればさまざまに気を配るべきポイントがあります。技法を教えることができてもそれだけではまだまだ足りません。演出を教え、台詞を教え、しかしそれは絶対のものではなく演者によるアレンジが必要であることをも教え、といった具合に伝えることは多岐に渡ります。相手の技量を把握してそれに合った適切な作品を選ぶセンスも大事ですし、少し本格的な手順になってくると、それは誰が考えた何という作品であるのかといった知識を併せて教えることも重要になってくるでしょう。

「最初はタネを見破ろうと考えず現象だけを見るように」「演じないマジックまで習う必要はない」「1人の客に2枚以上のカードを覚えさせてはいけない」「10の手順を知るより1の手順を完成させるほうが貴重である」etc... etc...。今となってようやくその重要さがわかる言葉が、会話の端々にそれとなく散りばめられていました。現在の私がそのとおりに実践しているかというのは、また別の話になりますが(汗)。

優れたPerformerがよいTeacherだとは限りません。他人にマジックを教える能力は、演者としての才能とはまた違ったものなのだろうと私は考えています。その意味でも初心者であった時期に、私があの先輩と巡り会うことができたのはつくづく幸運だったと感じます。今の私は当時の彼の年齢をすでに過ぎましたが、あれより上手に他人にマジックを教える自信はいまだありません。

ちなみに、こんなに美談めいたことばかり書くと「その人も先日亡くなってしまい〜」というオチを想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、まだまだ若く元気です(笑)。ときどき一緒に飲みに出かけたりしていますよ。