■ 自然な道具にこだわるべきか?

「見慣れない道具を用いるのはよくないことだ」と厳しく自分を律している愛好家が、意外と多くいるように感じます。見るからに仕掛けがありそうな箱を使いたくないというポリシーは理解できますし、正論だと思いますが、「不自然さ狩り」の度があまりに過ぎると、相手から借りた道具でしかマジックができなくなってしまいます。

使用する道具に対する客の疑念を完全に払拭するのは困難ですし、超能力の検証ではないのですから、演者が注力すべきはむしろ別の部分だろうと私は考えています。また、この場合の「自然さ」とは、単純に日用品を用いるべきということでもありません。誰の家のキッチンにも包丁があると思いますが、カバンからいきなり包丁を取り出すのが自然だと思う人はいないでしょう(笑)?

使用する道具立てに関して「自然さ」を過度に意識する必要はないというのが私の基本的な考えです。たとえ見るからにアヤシイ道具を取り出したとしても、起こった現象によって客が、道具の違和感以上の不思議さを感じてくれれば、その演技は成功したと考えてよいのではないでしょうか。