■ なるほどね…

大学のマジッククラブに入り、初めての学園祭。今から思えば赤面の至りですが、私は覚えたての拙いクロースアップ・マジックを、鼻息荒く披露していました。

たいていは温かい目で見てくれる「いいお客さん」でしたが、ごくまれに敵対心をむき出しにしてくる人がいて困りました。今の私なら、そういう人は珍しくないとわかっていますし、対応もできると思うのですが、なにせマジックを始めて半年くらいのこと。演じるマジックがことごとく見破られ、とても悔しい思いをしました。

見破ると言っても声高にタネを指摘するのではありません。まだ現象が起こっていないのに、シークレットムーブの直後にボソッと「なるほどね…」と呟く。そういう陰険な男性がいたのです(笑)。

「4枚のエースを、裏向きでここに置いておきます」
「なるほどね」ニヤリ。
「1、2、3、4、5枚の水と、こちらが5枚の油です」
「ふふん、なるほどねえ」ニヤニヤ。

何を見せてもそんな反応なので、すっかりイヤになり「それでは最後のマジックです」と前置きして、スベンガリデックを使いました。トリックデックはフォースにだけ使い、ここに予言がありますと言って「あなたはハートの10を選ぶ」と書いた紙片を見せたところ、相手がちょっと驚いた顔をして「コレはわからないな…」と言って帰って行きました。

勝ったのか負けたのか、そもそも勝負だったのか…。未熟だった頃の恥ずかしい思い出です(汗)。