■ 土台をしっかりしておけば、その時は時間がかかるようでも、あとの仕事に入ってからすべて段取りよく進む。

庄野潤三 『明夫と良二』


道具を扱う手つきを見るだけで、その人のマジックの腕をある程度推し量ることができます。Flourishの話ではありません。デックのトップからカードを1枚ずつ取って、表向きでテーブルに並べる。1枚を選んでもらうために、カード幅が均等になるようスプレッドする。または演技に入る前に、デックをシャフルまたはカットする。そういった「当たり前の」動作のことです。

マジックのあらゆる局面において言えることですが、Dirty Workを行わない場面でこそ、道具を正しく持ち、それを適正な動きとテンポで扱うことが重要だと考えます。例えば通常のシャフルが不完全であったなら、フォールス・シャフルがこなせるはずはありません。Secret Moveを習得するためにも、まずはNon-Secretの動きに注意を払うことが必須だと思うのです。

土台作りが重要であるのは誰もがわかっていることですが、これほど地味でつまらない作業もありません。道具の扱いなどはそこそこにして早く次の段階に移行したいという誘惑は抑えがたいものです。基本の重要性を理解した先達が身近にいて、自分は最初に基礎を叩き込まれたという人がもしいたら、それはごく稀に見る幸運な事例でしょう。