■ 英雄とは己のできることをなした人である。だが、凡人はそのできることをせずに、できもしないことを望んでばかりいる。

ロマン・ロラン 『魅せられたる魂』


ロマン・ロランは、20世紀を代表するフランスの思想家にしてノーベル賞作家。日本においても文学界のみならず、画家、音楽家、彫刻家、はては科学者、実業家に至るまで、その存在がかつて強い影響を与えた人物です。

「できることをなす」など、簡単で当たり前のことだと多くの人は考えるでしょう。が、しかし「凡人」は実はそれすらできていないのだと、この一節は教えています。能力があることと実際にそれを行うことの間には天と地ほどの開きがあり、マジックの世界でも事情は同じです。今はできないが練習すればできる、用意がないが明日ならできる、さっきは失敗したが次はできる…、そういった言い訳をいくつ重ねても誰の関心を買うこともできません。客が求めているのは目の前のPerformanceそのものだからです。

マニアの多くは自分がマジックを習い始めた頃に覚えた手順、例えばKeycard Locationを使った単純なカード当てなどを軽視し、振り向くことすらしません。しかしそういった人たちが演じる凝った手順に限って、何をやっているのか理解できないほど複雑で、見ていても結局面白くありません。いったん駄作というレッテルを貼って心から追い出してしまった作品を再び手に取ることは簡単ではありませんが、本当にその作品に演じる価値がないのかどうか、あらためて考えてみることは必要なのではないでしょうか。「できることをなす」のは、まず「できることを再認識する」ことから始まるのですから。