■ 碁の全体を百として、私がわかっているのは六くらいだ。

藤沢秀行 『週刊・碁』


囲碁の藤沢秀行名誉棋聖と、将棋の故芹沢博文九段が対談し、お互いに囲碁と将棋がどれくらいわかっているかを紙切れに書こうということになりました。そのとき芹沢九段は「四か五」と書き、藤沢棋聖は「六」であったとのこと。後日、藤沢氏は「セリちゃんより大きな数字だったので、多少面映ゆかった」と述べたと伝えられています。

マジックも囲碁・将棋に劣らず奥の深い世界ですから、古今東西の文献に精通している人でも、いえ、そういった人であればあるほど紙に大きな数を書くことはおそらくできません。あらためて述べるまでもないことですが、ここで言う「数字」は、その人が知っているタネの数とは別物だからです。

自己顕示欲の強いマニアが、タネに関する知識の豊富さを声高に語る姿を時折見かけますが、それは本人のマジックに対する理解の浅さを露呈する行為にほかなりません。藤沢・芹沢といった巨人たちの偉大さは比類なき勝負強さにのみよるのではなく、「四か五」「六」といった謙譲の念を持って、驕ることなくその世界と向き合う真摯な姿勢にこそあるのではないかと考えます。