■ 奇貨居くべし。

司馬遷 『史記』

珍しい品物は今手に入れておくべきだ。


奇貨(きか)とは珍しい品物のこと。原意は上のとおりですが、前後の文脈からさらに「珍しい品物は、今手に入れておけば後で大きな利益を得る材料となる。大事にしまっておいて好機を逸することなく利用しなければならない」と訳している書物もあります。

ある種のマジック関連の製品に関して「目に付いたときに購入しておかないと二度と入手できない」というのは真実です。その意味で「奇貨居くべし」を念頭に製品を買うこと自体は間違っていませんが、しかし、私はこの格言を声高に主張することに躊躇を覚えます。なぜなら経験上、マジックの世界において奇貨が必ずしも利益を生むとは限らないことを知っているからです。

ごく厳しい条件のもとで単一の現象しか起こすことができず、取り扱いには細心の注意を要するために使用頻度も低い、いわゆる「使えない道具」になりがちな製品の数々。しかしなぜかそういった製品に巡り会ったときに限り、蒐集欲をくすぐられて思わず財布の口を開けてしまうから不思議です(汗)。いつか役に立つだろうと自分を納得させて購入した「ネタもの」が、意に反してまったく活躍の場を持つことなく戸棚の奥深くに葬られているといった状況が、思いのほか多くはありませんか?