■ 麻雀の世界は、生活を離れた一つの楽園である。

菊池寛 『麻雀春秋』


上の一文に「そこではどんな空想も描くことができるし、どんな計画でもたてることができる。他と競いながらも、自分は自分で創造の快感に酔うことができる」と続きます。私はこの文章を一字も変えることなく、そのままマジック愛好家の格言だと紹介しても通じるような気すらしますが、いかがですか(笑)?

「生活を離れた」という一節が非常に重要であることに、ここで触れておきたいと思います。もし麻雀が生業であったなら、楽園などとヌルいことは言っていられないでしょう。プロが卓を囲むのは楽しむためではないからです。そう考えると麻雀であれマジックであれ、純粋な意味で「生活を離れた楽園」を謳歌できることこそが、アマチュアの特権ということができるかもしれません。

菊池寛は芥川賞や直木賞の創設者として、また『蘭学事始』『真珠婦人』などの代表作でも知られる文壇の巨匠です。その一方で、1929年に創設された日本でもっとも長い歴史を持つアマチュア麻雀団体、日本麻雀連盟の初代総裁という肩書きも持っていました。つまり麻雀の世界では、ある意味アマチュアの頂点に座した人物であるわけですから、その言葉には頷かされるものがあります。
 同氏はまた、関西の某麻雀団体発足に際し「麻雀讃」という題名の筆書きを贈っており、これも名文と思いますので抜粋して紹介します。

「(前略)最善の技術には、努力次第で誰でも達し得る。それ以上の勝敗は、その人の性格、心術、覚悟、度胸に依ることが多いだらう。あらゆるゲーム、スポーツがさうであるが如く、麻雀も技術より出で、究極するところは人格全体の協議になると思ふ。(後略)」