■ 名将陣に臨み、名優場に上ると、いつしかそこに魂がはいって、場面がいきいきと引き立って来る。

徳冨蘆花 『思出の記』


背筋を伸ばしてピッと立ち、客席をぐるりと見渡しただけで「この人は何か面白いことを見せてくれそうだ」という雰囲気を醸し出せる人がいます。努力することなしに身に付いた天賦の才だったり、または長年の経験によって獲得された余裕が生み出す落ち着きであったりと、その背景にあるものはさまざまでしょうが、一流のPerformerは程度の差こそあれ皆このような空気感を持っているものです。

上に書いた「空気感」という言葉をもう少しマジック寄りに表現すると「さりげなく場を掌握する能力」と言い換えられるように思います。書籍には「演技をするときには常に演者が心理的な主導権を握っていなくてはいけない」としばしば書かれていますが、これは言うほど簡単なことではありません。ペースを乱されまいという焦りが客に伝わり、いっそう意地の悪いツッコミを受けてしまう。初心者の演技中によく見られる気の毒な光景です。

タネさえ知ればマジックができるという誤解が、(マジックを演じない)一般の人の間にはいまだ深く根を下ろしていますが、実情はそれほど簡単ではありません。演技の印象を決定する要因は技法でもGimmickでもなく、実はこの空気感にあると言ってよいでしょう。前述した「さりげなく場を掌握する能力」、それこそがもっとも身につけることの難しいマジシャンのSecretではないでしょうか。