■ 爾の熱心を誇る勿れ。真面目を誇る勿れ、真面目という心持は大して価値あるものに非るなり。

国木田独歩 『悪魔』


物事にはすべて発端があり過程があり、そして結果があります。日本的な土壌では一般に、結果と同様に過程を評価し、そこに見られる熱心さ・真面目さという姿勢を美徳だと考える傾向があります。しかしマジックにおいては「過程を評価する」という考え方が存在しません。マジックでは結果こそがすべてだからです。

ここで私が言う「過程」とは演技の中途状態のことではなく、客に向かう以前の状態のことです。前もって演技をすることがわかっている場合、たいていの演者は当日の状況を“真面目に”考慮し、披露する演技を“熱心に”練習することでしょう。しかしひとたび客の前に立ったとき、その舞台裏の一生懸命さを客に感じさせる演者は二流です。

「失敗したがよくやった」「下手だが頑張りは認める」といった評価に甘んじるべきではありません。厳しい言い方ですが、マジックにおいては手順であれ製品であれ、未完成であり発展途上であるものは不良品・欠陥品なのです。