■ 日本人は三十の声を聞くと青春の時期が過ぎて了ったように云うけれども、熱情さえあれば人間は一生涯青春で居られる。

永井荷風 『新帰朝者日記』


マジックが非常に懐の広い趣味である理由の1つは、年齢を問わず、さまざまな楽しみ方ができる点です。若くてスタイルのよい演者が颯爽とカードをさばく姿は見ていて気持ちよいものですが、たとえ生え際が後退して腹が出ていても、アマチュアでマジックを楽しむだけなら何ら障害にはなりません(笑)。

ある程度の年齢を過ぎると、ボールを追いかけて走り回るような趣味を楽しむのは現実的に難しくなります。ですが基本的にマジックに必要なのは体力ではありませんから、三十どころかその倍の年齢になっても、本人に意欲さえあればドップリと特殊な世界に浸ることができるはずです。

新しいSleightに執心する技法マニア、古典作品を繰り返し演じて磨きをかける練達、数理トリックやシステムに魅力を感じる論理派、そして金に糸目をつけずGimmickを蒐集するコレクターなど、愛好家のスタイルは百人百様です。そしてそのいずれのこだわりにも安易に究められない奥深さがあり、そうであればこそマジックは、一生をかけて楽しむ価値のある趣味たりうるのだと思います。

長い人生の中では、興味の対象や度合いが当然変化していきます。好むと好まざるとに関わらず、マジックから少し距離を置く時期もあるでしょう。しかし「客の驚く顔が見たい」というイタズラ心が湧き起こる限り、実年齢に関わらずマジックで青春を謳歌するのはけっして難しいことではありません。