■ 伸びむ伸びむとする幼な心は、譬えば春の若菜の如し。仮令一度雪に降られしとて、蹂躙だにせられずば、自ずから雪融けて青々とのぶるなり。

徳冨蘆花 『不如帰』


伸びようとする気持ちがあれば、一時的に過酷な状況に身を置かれたとしても、それが緩和されたときに必ず頭角を現してくるものだと、若菜の芽吹きに例えて自発的意欲の重要性を述べた一節です。

『夢のクロースアップ・マジック劇場』(松田道弘編/社会思想社)に、六人部慶彦氏がMutobe Palmを考案するきっかけとなったエピソードが紹介されています。「受験勉強の期間中、奇術道具一切を、少年の雑念を気づかった母親に片付けられてしまいました。このとき受験生は、ただ1枚のハーフダラーだけを密かにパームして隠していました」というのがそれです。「パームして隠して」の部分は、編者である松田道弘氏の洒落だと思いますが(笑)、マジック禁止の話はおそらく事実なのでしょう。

言うまでもないことですが、厳しい環境下に置かれた人間がみな類い希なCreativityを発揮するわけではもちろんありません。現実はむしろその逆です。ですが、時として厳しい枷が逆に、天賦の才を一点に向けて収斂させる場合があると考えるのはあまりにも都合のよい結果論に過ぎるでしょうか。

【追記】
後日、六人部さん本人から「マジック道具取り上げられ事件は事実です」というメールをいただきました。ありがとうございます(笑)。