■ 億万を知らんと欲せば、すなわち一二を審らかにす。

勝田祐義 『金言童子教』


出典の『金言童子教』は、中国および日本の諸書から金言・ことわざを拾い、収録した書籍。児童向けの解説が加えられており、江戸時代には道徳の教科書としても用いられたとのことです。多くを得ようと試みるとき、全体の膨大さに圧倒されることなしに、まずは基本事項を詳しく知ることが肝要であるとの教訓は、他の多くの事柄と同様マジックにも当てはまります。

マジックについて少し詳しく学ぶと、この世界には一般の(マジックを演じない)人の目に触れない場所に、莫大な叡知の集成が眠っていることを知って驚くはずです。ある技法を身につけると特定の手順を演じることができ、その手順はさらに関連する別の製品との相性がよく…、といった具合に、相互に絡み合う知識や製品群はさながら宝の山のように入門者の心を奪うことでしょう。そして厄介なことに(?)それらの多くは、相応の手間や金額をかければ比較的簡単に手に入ってしまうものなのです。

取り憑かれたように書籍や製品を買い集め、知識も物量も一定量を越えたある時点で重要な根幹が欠けていることにふと気づく、という状況はあまり笑えません。しかしこれがままあることで、そしてその原因が入門書に解説されている基本技法が習得できていないため、というケースが実は少なくないのです。不思議さの現出に必要なのは、突き詰めれば「自然さと単純さ」です。シンプルな理論および技法の習得こそが、真に高みに登るための扉を開く。このこともまた、他の分野にも共通する真実でしょう。