■ 凡そ経済を論ずる者、知るべきこと四つあり。一つには時を知るべし。二つには理を知るべし。三つには勢を知るべし。四つには人情を知るべし。

太宰春台 『経済録』


太宰春台は江戸中期の儒学者。荻生徂徠の門下にあって、服部南郭が詩文に長じたのに対し、太宰春台は経済学に力を注いだとされています。経済とは今で言うEconomyとは意味が異なり、「経世済民」すなわち国を治め人民を救うということ。そのためには「時期・道理・趨勢・人心」の4つを知るべきだというのが、この一節の主旨です。

さて、マジックにおいても「1、タイミングをはかり」「2、無理のない筋道で」「3、状況をわきまえながら」「4、客の気持ちを推し量って」演技をすれば、たいていの失敗は回避することができます。それどころか、この4つを守っている限りまず確実に、優良なマジシャンという評価を得ることができるでしょう(優秀な、というのはまた少し話が違います)。
 加えて言えば、上記の4点にきちんと気を遣うことができる人なら、マジックを離れたあらゆる日常生活の場面でも正しく振る舞うことができ、優良な人物として受け入れられるはずです。

ここで言う経済とは「国を治め人民を救う」ことだと前述しましたが、人民とはすなわち個人の集合体です。そこに働きかけるための極意が、少人数を相手にしたPerformanceに敷衍できない道理はありません。