■ 累卵の危うき。

枚乗 『上書諌呉王』


累卵とは積み上げた卵の意で、極めて不安定で危険な状態の例え。前後の文を補うと「反掌の易きに出でて、泰山の安きに居らずして、累卵の危うきに乗じて、上天の難きに走らんと欲す」となります。

以前、高木重朗氏にあるカードマジックを教えていただいた際、その手順の中で氏が1枚のカードを、非常に長い時間パームし続けていた事実に驚いた記憶があります。カードをパームしたとき、たいていの愛好家は隠し持ったカードを一刻も早くデックなりポケットなりに移動させて安心したい衝動に駆られるでしょう。もちろん私も例外ではありません。しかしそのときの高木氏は、右手を軽く握ったり開いたりしながら平然とパームを保持し、十分過ぎる時間が経過した後にきわめて自然な理由と動作で両手を合わせ、カードをデックに戻していたのです。そしてこの余裕こそが確実にカードの在り場所を不明瞭にさせ、手順の不思議さを増加させる一因となっていました。

「客から見た自然さが、演者にとっての不安定さより優先されるべきである。また、その種の不安定さは練習を重ねることによってかなり軽減されるものだ」ということを、私はこのとき氏から学ばせてもらったと考えています。